ライカ(laika, pl. malaika)、ラライカ(lalaika)とも呼ばれる。複数形はマライカ(malaika)で、スワヒリ語では「天使」(単複ともにmalaika)の意味になるのだが、関係ないかも。ライカにはきわめて多くの種類がいる。多いのは「池」の住人(atu a maziyani)。キツィンバカジ(chitsimbakazi1)は、単独で重要な憑依霊であるが、池の住人ということでライカの一種とみなされる場合もある。
ある施術師によると、その振舞いでいくつかに分れる。
ムズカのライカ(laika wa muzuka)
ムズカに棲み、人のキブリ(chivuri2)を奪ってそこに隠す。奪われた人は朝晩寒気と頭痛に悩まされる。ライカ・トゥヌシ(laika tunusi)など。
「嗅ぎ出し」のライカ(laika wa kuzuzwa)
水辺に棲み子供のキブリを奪う。またつむじ風の中にいて触れた者のキブリを奪う。朝晩の悪寒と頭痛。ライカ・ムェンド(laika mwendo)、ライカ・ムクシ(laika mukusi)など。
身体内のライカ(laika wa mwirini)
憑依された者は白目をむいてのけぞり、カヤンバの席上で地面に水を撒いて泥を食おうとする ライカ・トブェ(laika tophe)、ライカ・ニョカ(laika nyoka)、ライカ・キフォフォ(laika chifofo)など。
その他
ライカ・ドンド(laika dondo)、ライカ・キウェテ(laika chiwete=ライカ・グドゥ(laika gudu))、ライカ・バワ(laika mbawa)、ライカ・ツル(laika tsulu)、ライカ・マクンバ(laika makumba)など。
ライカには多くの種類がある。以下に簡単な説明を。唱えごとの中に登場するだけで、よく実体がわからないものもある。覚えても何の役にも立たないし、テストにも絶対出ないので、悪しからず。
ライカ・ブブ(laika bubu)
ブブ(bubu)はスワヒリ語で「聾唖者」を意味する名詞。症状は口がきけなくなること。 2.ライカ・キフォフォ(laika chifofo) キフォフォ(chifofo)は「癲癇」あるいはその症状。症状: 痙攣(kufitika)、口から泡を吹いて倒れる、人糞を食べたがる(kurya mavi)、意識を失う(kufa,kuyaza fahamu)。ライカ・トブェ(laika tophe)の別名ともされる。
ライカ・キグェンゴ(laika chigbwengo)
別表記としてライカ・キブェンゴ(laika chibwengo)、ライカ・キブェング(laika chibwengu)。 ライカ・キグェングェレ(laika chigbwengbwele)、ライカ・ヌフシ(laika nuhusi)、ライカ・グドゥ(laika gudu)などはその別名ともいう。スワヒリ語のキブェンゴ(kibwengo)は辞書では「大木や海に棲む悪霊」と定義されている。Caplan,1975によるとMabwenguは憑依しない海の精霊だと述べられている(Caplan,A.P., 1975, Choice and Constraint in a Swahili Community: Property, Hierarchy and Cognatic Descent on the East African Coast, Routledge, p.112)
ライカ・キウェテ(laika chiwete)
片手、片脚のライカ。chiweteは「不具(者)」の意味 症状: 脚が壊れに壊れる(kuvunza vunza magulu)、歩けなくなってしまう。 別名ライカ・グドゥ(laika gudu)。キウェテ・ブンブワジ(chiwete bumbuwazi)もライカ・キウェテの中に数える施術師もいる。ブンブワジは「考えること、覚えることができない精神状態」スワヒリ語のku-bumbuaza「驚かす、混乱させる」より。
ライカ・ドンド(laika dondo)
ドンド(dondo)は「乳房 nondo」の augmentative form。乳房が片一方しかない姿で現れるという。 症状: 嘔吐を繰り返し,水ばかりを飲む(kuphaphika, kunwa madzi kpwenda )。キツィンバカジ(chitsimbakazi1)の別名ともいう。
ライカ・グドゥ(laika gudu)
動詞ク・グドゥラ(ku-gudula)「びっこをひく」より。ライカ・キウェテ(laika chiwete)の別名ともいう。
カヌンドゥ(kanundu)
ライカ(laika)の一種とする人もいるので、ここに挙げておく。ヌンドゥ(nundu)という語には「コウモリ(ka-はdiminutive)」以外にも「瘤」の意味もある。ライカ・キヌンドゥ(laika chinundu「瘤のライカ」)というライカもいるので、同じものかも知れない。ただカヌンドゥは、コウモリと同じように尻で後退りすることからそう言うのだと説明する人もいる。一方ライカ・キヌンドゥについてはライカ・パガオの(それゆえライカ・ヌフシ、ライカ・ムズカの)別名だという人もいて、もしそうならカヌンドゥとは別物だということになる。
ライカ・ジャロ(laika jaro)、ライカ・マジャロ(laika majaro)とも
ジャロ(jaro)は「旅」を意味するチャロ(charo)のaugmentative、その複数形がmajaro。このライカは休むことを知らず、ひたすら旅を続ける(mutu ariye kaoya, jaro kpwenda tu.)。ライカ・ムェンド(laika mwendo)の別名ともいう。
ライカ・ムバワ(laika mbawa)
バワ(bawa, pl.mabawa)は「ハンティングドッグ(Lycaon pictus)」。病気の進行が速い。もたもたしていると、血をすべて飲まれてしまう(kunewa milatso)ことから。 症状: 貧血(kunewa milatso)、吐血(kuphaphika milatso)
ライカ・ムカンガ(mukanga)
唱えごと、歌のなかで言及されるのみ。ムカンガという名詞は、憑依霊ルキ(luki89の歌の中でも登場する。ムカンガガ(mukangaga90)の間違いかとも思ったが、何度も出てくるので別物だろう。植物としてはドゥルマにはこの名前の植物はない。ただ隣接するカンバ人のあいだではムカンガは果樹の一種(Garcinia livingstonei)として知られている(Maundu&Tengnas2005:248)。ドゥルマ地域にも分布しているらしいが、ドゥルマ名は mfungatanzu(ibid.)。しかし別の論文ではmufungatsandzuはHaplocoelum inoploeum(Pakia&Cooke2003:381)とされており、こうなると私にはお手上げ。
ライカ・ムカンガガ(laika mukangaga)
ムカンガガ(mukangaga)は水辺に群生するイネ目カヤツリグサ科の植物。ドゥルマでは伝統的な屋根ふきの材料。戸外のキザ(chiza cha konze)を池に見立てて、その周りに植えられたり(ただ地面に差すだけだが)する。
ライカ・ムクンバ(laika makumba)
憑依霊デナ(dena60)の別名であるともいう。これに触れられる(ku-kumbwa)と,気が狂って病気になり、「嗅ぎ出し」(ku-zuza)が必要になる。
ライカ・ムクシ(laika mukusi)
クシ(kusi)は「暴風、突風」。キククジ(chikukuzi)はクシのdiminutive。「つむじ風」。風が吹き抜けるように人のキブリ(chivuri2)を奪い去る。ライカ・ムクセ(laika mukuse)とも。ライカ・ムェンド(laika mwendo) の別名だともいう。
ライカ・ムユユヒコ(laika muyuyuhiko)
「乳房から薄い乳がだらだら流れる、びゅるびゅる流れる様」を表す動詞ク・ユユヒカ(ku-yuyuhika)より。唱えごとのなかで名前が挙げられるのみで、詳しい属性や振る舞いなどは不明。ただ母親にライカがとり憑いている場合、母乳が変質して子供に害を及ぼすと言われており、それとの連想もありそうだ。
ライカ・ムズカ(laika muzuka)
ライカ・トゥヌシ(laika tunusi)の別名ともいう。トゥヌシは洞窟などのムズカの主。またライカ・ヌフシ(laika nuhusi)、ライカ・パガオ(laika pagao)、ライカ・ムズカは同一で、3つの棲み処(池、ムズカ(洞窟)、海(baharini))を往来しており、その場所場所で異なる名前で呼ばれているのだともいう。ライカ・キフォフォ(laika chifofo)もヌフシの別名とされることもある。
ライカ・ムァフィラ(laika mwafira)
フィラ fira(mafira(pl.))はコブラ。mwaを前につけると人間を意味するので、コブラ人間ということになるだろうか。laika mwanyoka、laika tophe、laika nyoka(laika ra nyoka)などの別名。
ライカ・ムァニョーカ(laika mwanyoka)
nyoka(pl. nyoka) は「ヘビ」、mwanyoka は「ヘビの人」といった意味。laika chifofo、laika mwafira、laika tophe、laika nyokaなどの別名ともいう。
ライカ・ムェンド(laika mwendo)
動きの速いことからムェンド(mwendo)と呼ばれる。mwendoという語はスワヒリ語と共通だが、「速度、距離、運動」などさまざまな意味で用いられる。唱えごとの中では「風とともに動くもの(mwenda na upepo)」と呼びかけられる。別名ライカ・ムクシ(laika mukusi)。すばやく人のキブリを奪う。「嗅ぎ出し」にあたる施術師は、大急ぎで走っていって,また大急ぎで戻ってこなければならない。さもないと再び chivuri を奪われてしまう。基本は人のキブリ奪うことであるが(キブリを奪われた人は頭痛、嘔吐などを経験し、朝晩悪寒を感じるという)、人を宿主としてとり憑くこともあり、その場合は激しい狂気(kpwayuka vyenye)を呈する。
ライカ・ヌフシ(laika nuhusi)
ヌフシ(nuhusi)はスワヒリ語で「不運」を意味する。ドゥルマ語の「驚かせる」(ku-uhusa)に由来すると説明する人もいる。ヌフシはまたムァムニィカ同様、内陸部と海を往復する霊であるともされる。その通り道は婉曲的に「悪い人の道njira ya mutu mui(mubaya)」と呼ばれ、そこに屋敷などを構えていると病気になると言われる。ある解釈では、ヌフシは海で人に取り憑いた場合は、海のパガオ(ライカ・パガオ(laika pagao))が憑いているなどと言われるが、単にヌフシの別名に過ぎない。ライカ・ムズカ(laika muzuka)もヌフシの別名。ムズカに滞在中に取り憑いた際の名前である。その証拠に、この3つは同じ症状を引き起こす。つまり「口がきけなくなる」という症状。霊がその気になれば喋れるのだが、その気がなければ、誰とも口をきかない。
ライカ・ニョカ(laika nyoka)
ニョカ(nyoka)は「蛇」。ライカ・ムァフィラ(laika mwafira)、ライカ・ムァニョカ(laika mwanyoka)などの別名とされる。
ライカ・パガオ(laika pagao)
海辺で取り憑くライカ。ライカ・ヌフシ(laika nuhusi)の別名。ジネ・パガオ(jine pagao)という名前で、ジネ(jine12)に数えられることも。
ライカ・トブェ(laika t'ophe)
トブェ(t'ophe, pl.mat'ophe)は「泥」。 取り憑かれた場合、口がきけなくなり、泥や土を食べたがる。泥の中でのたうち回るなどの振る舞いを見せる。別名ライカ・ニョカ(laika ra nyoka)、ライカ・マフィラ(laika mwafira)、ライカ・ムァニョーカ(laika mwanyoka)、ライカ・キフォフォ(laika chifofo)。
ライカ・ツル(laika tsulu)
ツル(tsulu, pl.tsulu)は「土山、盛り土」。腹部が土丘(tsulu)のように膨れ上がることから。
ライカ・トゥヌシ(laika tunusi)
ヴィトゥヌシ(vitunusi)は「怒りっぽさ」。トゥヌシ(tunusi)は人々が祈願する洞窟など(muzuka)の主と考えられている。別名ライカ・ムズカ(laika muzuka)、ライカ・ヌフシ。症状: 血を飲まれ貧血になって肌が「白く」なってしまう。口がきけなくなる。ライカ・トゥヌシ(laika tunusi)とは別に、除霊の対象となるトゥヌシ(tunusi)がおり、ややこしい。こちらは、ニューニ(nyuni14)あるいはジネ(jine)の一種とされ、女性にとり憑いて、彼女の子供を捕らえる。子供は白目を剥き、手脚を痙攣させる。放置すれば死ぬこともあるとされている。女性自身は何も感じない。トゥヌシの除霊(ku-kokomola)は水の中で行われる。一方、ライカ・トゥヌシはムズカの主(ライカ・ムズカの別名とされるし)とされるが、こうしたムズカに住んでいるのはイスラム系のジネだと主張する人もおり、そうなると池系のライカとは本来異質なカテゴリーの霊だということになる。
ライカ・ズズ(laika zuzu)
ズズ(-zuzu)は「愚かな」を意味する形容詞。属性などについては不明。ライカ・ズズによって奪われたキブリを戻す「嗅ぎ出し」を得意とする施術師がいるという話を1993年に聞く。この施術師は通常の「嗅ぎ出し」とは異なり屋敷内ですべてを行った。川にも池にもムズカにも行くことなく屋敷の庭に据えたchizaに奪われたキブリを呼び戻して瓢箪に入れ、それを患者に戻すという施術。
ルキ(luki)
憑依霊の一種。唱えごとの中ではデナ60、ニャリ61、ムビリキモ63などと並列して言及されるが、施術師によってはライカ(laika)の一種だとする者もいる。症状は発狂(kpwayuka)であるが、黒い(ムルングの紺色の)布(nguo nyiru ya mulungu)を要求し、この霊を外に出した施術師は「嗅ぎ出し(kuzuza)」の施術を行うことができるなどライカ的な要素も濃厚である。通常、ライカとはまったく別カテゴリーの霊だとされるデナやニャリもライカの一種だという主張もあり、グレーゾーンだ。
ライカの施術を指示する占いの事例(他にもいろいろ指示しているけど)
薬液の処方、護符(ngata30)
応急治療(hamehame)として行われる
屋内のキザ(chiza cha nyumbani ムルング子神のための)と戸外のキザ(chiza cha konze35 ライカ、シェラ、憑依霊ディゴ人のための)での薬液浴びをセットで行う
同時に護符ンガタ(ngata)の装着もなされる場合もある 後日(資金等が許せば)下記のキブリ戻しを行う必要がある
カヤンバ演奏を伴う、やや大掛かりな施術。ンガタの授与も同時に行われる場合もある
「外に出す」ンゴマ
最終的には他の憑依霊たちと同様に、ライカたちの要求は宿主自身が施術師になり、ライカの仕事をするようになること(ライカに仕事を与えてやることと同義)である
これは外に出すンゴマ(ngoma ya kulavya nze)という施術師就任の大掛かりなンゴマを必要とする。このンゴマによってライカの瓢箪子供を与えられる。通常はライカと同時にシェラ(shera66)、憑依霊ディゴ人も外に出され、同じ瓢箪子供を共有する。
「嗅ぎ出し」施術事例
最初の調査地「青い芯のトウモロコシ」村で、はじめて憑依霊によって奪われたキブリ2を探し出し、取り戻す施術が存在することを知った。カヤンバがあるということで、見に行ったところ「嗅ぎ出しのカヤンバ」だったという、いきなりの遭遇。
「ジャコウネコの池」村。ワタシ的には「嗅ぎ出しのカヤンバ」は、音楽付きのパントマイムみたいな感じで、言語資料的にはあまり魅力的ではなかったので、肝心の水場への行進をパスしたり、途中で帰ったりみたいな、気のない調査をしていた。これはなんとなく行進にもついていき、最初から最後まで見た初めての事例。
チャリの「重荷下ろし」とシェラ、ディゴ人、ライカを「外に出す」ンゴマ: 屋敷での嗅ぎ出し
施術師チャリが、新たにライカ、シェラ、ディゴ人について癒やしの術を「外に出す」、つまりそれらの憑依霊に関する施術師に就任する大規模なカヤンバが開かれた。「嗅ぎ出し」、徹夜のカヤンバ、シェラに対する「重荷下ろし」を2日間かけて実施。その中で行われた「嗅ぎ出し」は、屋敷内から一歩も外に出ない、つまり水場までのキブリ探しの過程を一切含まないものだった。私が見た中でも、もっとも異色というか型破りの「嗅ぎ出し」であった。
マフフの屋敷における出産祈願の瓢箪子供を差し出すカヤンバにおける嗅ぎ出し
施術師チャリが3週間前に「外に出」して施術師にしたトゥシェを助手として行った瓢箪子供を差し出すカヤンバでの「嗅ぎ出し」施術。日記部分の写真、および、フィールド・ノートにおける手順の簡単な紹介(言語データなし)
施術師チャリによる「嗅ぎ出し」。かつてチャリの「施術上の子供96」だったが離反した女性施術師に対する内輪のカヤンバ。施術上の親子関係に潜む潜在的葛藤が明るみに出る。小屋の中での処理について、できるだけきちんとデータをとった。
日記、及び、フィールドノート、ドゥルマ語による書き起こしテキスト(翻訳なし)のみ。聾唖の少年をめぐる施術。彼の障がいが母親に憑いているライカのせいであるとされた。しかし、ムウェレ(患者の母)が全く踊らなかったので、その原因究明のなかで、ターゲットを間違った父のムフンド(mufundo105)が明らかに。
ドゥルマ人男性施術師による「嗅ぎ出し」だが、コーランを使う「イスラム風味」。でも作業そのものは普通のクズザだ。ライカとシェラで合計2回もキブリ探しを行う。「事故」により録音資料紛失でフィールドノートの記録のみなのだが、変わり種の嗅ぎ出し事例として紹介しておきたい。

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tsovyaの別名とされる「内陸部のスディアニ」の絵 ↩
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