3-2 の占いで指示された「応急治療(hamehame)」
他の施術師による占いでチャリが治療に当たる施術師として選ばれた
何人もの施術師の治療で回復しなかった赤ん坊がもちこまれ、応急治療がなされた
乳幼児の病気以外の理由でのムドエのピング
これらの霊は、非常に古くからいたとされている。ペーポーコマ、ドゥングマレ、ムドエはンゴマ(ngoma1)(あるいはカヤンバ)の場で演奏され、踊られることもあるが、ほぼ乳幼児の病気の治療の場で唱えごとされることで、多くの人に知られているのみ。とは言え、乳幼児の病気は深刻な関心事であるので、その治療の需要は多い。一部は除霊(kukokomola5)の対象になる場合もある。
スンドゥジ(sunduzi)
ムドエ(mudoe)、ドゥングマレ(dungumale)、キズカ(chizuka)、ジム(zimu)、ペポコマ(p'ep'o k'oma)などと同様に、母親に憑いて、その母乳経由で子供に危害を及ぼす。スンドゥジ(sunduzi)は、母乳を水に変えてしまう(乳房を水で満たし母乳が薄くなってしまう ku-tsamisa maziya, gakakala madzi genye)ことによって、それを飲んだ子供がすぐに嘔吐、下痢に。。母子それぞれにpingu(chihi)を身に着けさせることで治る スンドゥジの草木= musunduzi、ピングに包み込む薬(muhaso)は、ムルングの瓢箪の中の黒い粉状の薬(ムルングの草木を炒って黒い粉末にしたもの)とスンドゥジの草木を用いる。
ペーポーコマ(p'ep'o k'oma)
ムルング(mulungu42)と同じだと言う人も。ムルングの子供だとも。ペーポーコマには2種類あり、「地下世界のペーポーコマ(p'ep'o k'oma wa kuzimu)」と「池のペーポーコマ(p'ep'o k'oma wa ziyani)」であるが、特に断りがなければ前者である。草木はムラザコマ(mulazak'oma48)、ムブァツァ(muphatsa49)。ペーポーコマの護符ンガタ(ngata22)やピング(pingu23)のなかに入れるのはムルングの(薬(muhaso)の)瓢箪の中身。主な症状としては、身体の発熱(しかし、手足の先は氷のように冷たい)。寝てばかりいる。トウモロコシを挽いていても、うとうと、ワリ(練り粥)を食べていても、うとうとするといった具合。カヤンバでも寝てしまう。寝てばかりで、まるで死体(lufu)のよう。それが「死者の土地ペーポーコマ(p'ep'o k'oma wa kuzimu)」の名前の由来。治療には、ピング(pingu)の中にいれる材料としてミミズが必要。寝てばかりなのでムァクララ(mwakulala(mutu wa kulala(=眠る))の別名もある。スンドゥジ(sunduzi50)やムドエ(mudoe51)と同様に、女性に憑いた場合、母乳を介してその子供にも害が加わる。
ドゥングマレ(dungumale)
母親に憑いて子供を捕らえる憑依霊。ンゴマでも稀に演奏される。症状は発熱(mwiri moho)。子供は泣き止まない。嘔吐、下痢。通常は、乳幼児のこうした症状の治療の際に、スンドゥジ他と同時にピングを処方するなどされる。ピングに包み込むのはムルングの薬の瓢箪の中身と、ドゥングマレの草木。除霊の施術師たちの多くは、この霊を除霊(ku-kokomola5)の対象になる除霊の対象となる「除去の霊(nyama wa kuusa7)」に含めている。除霊の際のキリャンゴナ(chiryangona59)は黒いヤギ(mbuzi nyiru)、ヤギを繋いでおくためのロープ。除霊の際には、患者はそのロープを持って走り出て、屋敷の外で倒れる。ドゥングマレの草木: mudungumale=muyama60
キズカ(chizuka)
憑依霊「泥人形」chizukaは粘土で作った人形。憑依霊としては、ムドエ(mudoe)、ドゥングマレ(dungumale)、スンドゥジ(sunduzi)、ペポコマ(p'ep'o k'oma)などと同様に、母親に憑いて、その母乳経由で子供に危害を及ぼす。症状:嘔吐(kuphaphika)、「子供をふやけさせるchizuka mwenye kazi ya kuwala mwana ukamuhosa」。キズカをもつ女性は、白い羊(virongo matso 目の周りに黛を引いたように黒い縁取りがある)を飼い置く。除霊(kukokomola5)の対象となることもある。
ムドエ(あるいは憑依霊ドエ人)(mudoe)
民族名の憑依霊、ドエ人(Doe)。タンザニア海岸北部の直近の後背地に住む農耕民。憑依霊ムドエ(mudoe)は、ドゥングマレ(Dungumale)やスンドゥジ(Sunduzi)、キズカ(chizuka)などとならんで、古くからいる霊とされる。ムドエをもっている人は、黒犬を飼っていつも連れ歩く。それはムドエの犬と呼ばれる。母親がムドエをもっていると、その子供を捕らえて病気にする。母親のもつムドエは乳房に入り、母乳を水のように変化させるので、子供は母乳を飲むと吐いたり下痢をしたりする。犬の鳴くような声で夜通し泣く。また子供は舌に出来ものが出来て荒れ、いつも口をもぐもぐさせている(kpwafuna kpwenda)。ピング(pingu23)は、ムルングの草木に加え、ムドエの草木(特にmudzala52)と犬の歯で作り、それを乳幼児の母親の胸に掛けてやる。
ムドエをもつ者は、カヤンバの席で憑依されると、患者のムドエの犬を連れてきて、耳を切り、その血を飲ませるともとに戻る。ときにムウェレ(muwele62) 自身が犬の耳を咬み切ってしまうこともある。この犬を叩いたりするとその所有者が病気になるとされている。
ジム(zimu)
ジム(zimu)は民話などにも良く登場する怪物。身体の右半分は人間で左半分は動物、尾があり、人を捕らえて食べる。gojamaの別名とも。mabulu(蛆虫、毛虫)を食べる。憑依霊として母親に憑き、子供を捕らえる。その子をみるといつもよだれを垂らしていて、知恵遅れのように見える。うとうとしてばかりいる。ジムをもつ女性は、雌羊(ng'onzi muche)とその仔羊を飼い置く。彼女だけに懐き、他の者が放牧するのを嫌がる。いつも彼女についてくる。gojamaの羊は牡羊なので、この点はゴジャマとは異なる。ムドエ(mudoe)、ドゥングマレ(dungumale)、キズカ(chizuka)、スンドゥジ(sunduzi)とともに、昔からいる霊だと言われる。
Chari(C): その頃には...そもそも、スンドゥジ(sunduzi50)は、ドゥングマレ(dungumale37)やジム(zimu67)やキズカ(chizuka68)と前後してやってきた。そしてスンドゥジもね。 Hamamoto(H): えーと、つまりどれくらい昔なんですか? C: 齢とった老人たちの昔の憑依霊よ。だって、私の祖父たちの昔からだもの。(その頃には)シェラの連中(mashera69)はいなかった。全然いなかったのよ。いたのはムルング(mulungu42)とスンドゥジの連中(masunduzi)。それにドゥングマレとジム。 さて、このスンドゥジだけど、こいつが人をつかむ(捕らえる)仕方ってのがね、まずあなたが子供を産んでいなくちゃならない。あなたが子供を産んで、その子が下痢の病気につかまえられるのよ。それと嘔吐。そしてこの(母親の)乳房が張って、ンディー(ndii82)と一杯になる。母乳が水に変わっちゃうのよ。これこそ、あいつスンドゥジの仕業。そいつが母乳をとって水のように薄めてしまうのよ。ここ胸元にピング(pingu23)を調えてもらわないとね。これがスンドゥジが子供を捕らえるやり方よ。嘔吐と下痢だけ。あなたが占い(mburugani83)に行くと、ドゥングマレとジムとスンドゥジのせいだと言われます。さあ、この胸元にピングを調えてもらって、母乳、あの病んだ母乳を移動させて、本物の母乳に来させるのよ。
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Hamamoto(H): (スンドゥジは)母乳を変えて水のようにしてしまうんですね。 Chari(C): そう。 H: ところで今さっき、昔は子供が「飛び立たされる(kuuruswa84)」ことはなかったとおっしゃいましたよね。 C: そう。昔は子供たちは「飛び立たされ」なかったわ。昔は、すぐにドゥングマレとジムとキズカ、それとあのスンドゥジで治療されてました。そして普通にしていて、二度とその病気に捕らえられることはなかったわ。その子が自分で歩けるようになるまで。当時は、シェラの連中はいなかったし、他のあれこれもいなかった。あれらの憑依霊だけ、それとプンガヘワ(pungahewa87)だけよ。 H: おお、なるほど、あれらシェラの連中や(憑依霊)ディゴ人の連中は、最近やってきたんですね。 C: あれらは最近も最近来た連中よ。あいつらは薬(mihaso13)の憑依霊たちよ。あのシェラ本人が、そもそも薬の憑依霊よ。 H: でも昔からの憑依霊(nyama)は、スンドゥジ、ドゥングマレ、ジム、キズカ、ムドエ、プンガヘワ、キツィンバカジ、そしてムルング... C: だから子供が下痢と嘔吐に見舞われたら...うう、それにペーポーコマ(p'ep'o k'oma88)もいたわ。だってかれら全員、同じ場所なんだもの。
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Chari(C): (子供が)足先がンゴーと冷たくなるのを見る病気に見舞われたら。そして身体がずっと熱くて、眠ってばかりいる。それはペーポーコマよ。あいつスンドゥジとつるんでいるやつ。ウトウトしてばかり、高熱、そして母乳を吸うと吐いちゃう。すぐにうとうとする(botswa)症状は、あいつ地下世界のペーポーコマ(p'ep'o k'oma wa kuzimu)よ。そして嘔吐させるのはあいつスンドゥジよ。そいつこそが、子供が母乳を吸うと、すぐに吐いてしまう(症状をもたらす)やつ。 Hamamoto(H): ああ、ありがとうございます。よくわかりました。
Hamamoto(H): ではこの「地下世界のペーポーコマ(p'ep'o k'oma wa kuzimu)」と「池のペーポーコマ(p'ep'o k'oma wa ziyani)」について、これらはどんな霊なんでしょう? chari(C): ペーポーコマ?ペーポーコマも同じようにあのムルングなのよ。 H: ムルングのこと?私はコマ(k'oma89)というと昔に死んだ人のことだと思ってました。 C: ペーポーコマ、ペーポーコマ、あなたが誰かにそのンガタ(ngata22)を結んでやるとしたら、あるいは誰かにペーポーコマのピング(pingu23)を縫ってあげるとしたら、あなたはムルングの瓢箪を使うのよ。それはね、ムァムニィカ(mwamunyika90)なのよ。 H: としたら、ペーポーコマとムルングは、その症状も同じですか? C: 同じよ。つまり同じ一人の人なのよ。つまりね、人も大きくなると、必ず子どもたちを産むものでしょ。でも同じ一人の人でしょ。ペーポーコマは、そのピングでも、ムルングです。おまけにそのピングはムルングの瓢箪で作るのよ。 H: それは祖霊(k'oma)のことじゃない?
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Chari(C): だって、もし子供が遭遇したら、ペーポーコマの病気に捕らえられたら、ここ(足を指して)が冷たくなるでしょう、まるで氷を撒かれたみたいにね。それとここ、手の平も。でも身体はずっと熱いまま。そして、もう、ずっと眠り続けたがるの。いつも身体じゅうが痛い痛い(tikitiki92)ばかり、ウトウトしては眠り続けるばかり。でもあなたがやって来てペーポーコマのピングを縫ってあげたら、ほら、その子は治るのよ。 Hamamoto(H): ペーポーコマは子供を捕らえるのですか?大人は捕らえないのでしょうか。 C: 大人だって捕らえるわ。それどころか、もしあなたがそいつと出会ってしまったら、あなたの身体じゅうの関節がボロボロになるわよ。それから、あなたが野草(をおかずにするために)の葉をむしっているときですら、ウトウトするようになる。トウモロコシの粉を挽いているときにも、眠むりそうになる。食事中にも、ウトウトする。そんなわけで、そいつは大人だって捕らえるのよ。ここにいる私だってそう。(ペーポーコマは)今、この場で私を捕らえることもありうる。あげくは、誰かが占い(mburuga)を求めても、私はただ眠り続けたいだけ。占いを打つのに失敗してしまう。
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Hamamoto(H): ペーポーコマの症状は、ひたすら眠りたいということ? Chari(C): そう。そいつの仕事は眠り続けることよ。 Murina(M): そいつには良いことなどない。そいつの良さは、睡眠だけさ。 C: さて、そいつはあなたの身体も壊しに壊すことができる。あなたは起き上がることもできなくなる。だって、全身が痛いし、目を開けることもできないし、ただひたすら眠気を感じるだけ。眠気は去ろうともしない。 H: おお、それがペーポーコマですか。まるで死体みたいな。 C: だから、そいつは地下世界(=死者の世界)のペーポーコマと呼ばれているのよ。今でも、ペーポーコマの治療をするときには、ミミズを探してこないと駄目なのよ。ミミズって知ってる? H: 知ってますよ。 C: 魚を釣るために地面を掘って手に入れるやつよ。さて、ピング(pingu23)のなかには、そいつを入れるのよ。つまり地下世界に棲んでるから。
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Hamamoto(H): ところで、もしカヤンバが打たれるとしたら、ペーポーコマの振る舞いはどんな感じですか? Chari(C): (カヤンバが)打たれたら、そいつはそもそも眠っちゃうのよ。 H: え?カヤンバの席で? C: そう。まず最初に、そいつが到来したら、あなたがカヤンバを打っていると、そいつ(に憑依されたムウェレ(muwele62)は眠っている。あなた方が、一人一人の憑依霊(の歌を)打っている間、そいつは眠っている。そいつの歌が打たれるまではね。そのときになってそいつは踊る。さあ、そいつは踊る、満足するまで。そこでやっとそいつは他の憑依霊に道を譲ってやる。そいつがやって来ちゃうと、他の憑依霊はそこにやってこれないのよ。 H: そいつの仕事は眠り続けることだけ。 C: 眠り続けるだけ。ね、だからそいつは(別名)ムァクララ(mwakulala「眠る人」)って呼ばれるのよ。 H: それがそいつの別の名前ですか?ムァクララが。 Murina(M): 正式名称はペーポーコマ、でも別名ムァクララ。 C: (歌)「そいつは雲の上で眠っている」。「寝台の上で眠っている」って歌う歌い手もいるけどね。さてさて。
Chari(C): ムドエ(mudoe)の草木は、あっちに生えてるあれムザラ(mudzala52)よ。 Hamamoto(H): ではドゥングマレ(dungumale)の草木は? C: ムドゥングマレ(mudungumale)よ。これ、このムヤマ(muyama60)のことよ。(スンドゥジの草木)ムスンドゥジ(musunduzi93)は、ムスンドゥジね(別名はない)。あなたムスンドゥジは知ってる? H: はい知ってます。ところで、憑依霊のそれぞれが、仕事、あるいは症状(magbwirige,字義通りには「つかまえ方」)をもっていますよね。 C: 症状?そいつらの仕事、あるいは症状は、ほぼ同じ(関連している)よ。だって、キズカ(chizuka)が人を嘔吐させ、ジム(zimu)やスンドゥジ(sunduzi)は下痢させる。そいつらの病気は一緒にやってくる。というわけで、そいつらは同じ日に(同時に)治療しなければならないの。それが昔の憑依霊たちよ。 H: キズカの仕事は嘔吐させること。 C: スンドゥジ、その仕事は母乳をとって水に変えてしまうこと。子供が吸うと、(母乳は)身体の中にとどまらないの。スンドゥジが母乳の代わりに水を置くでしょ。それは子供の腹に入って、キズカがすぐに嘔吐させてしまうの。 H: じゃあ、ドゥングマレは? C: ドゥングマレ、そいつは身体を熱くする。ペーポーコマは子供を眠らせ、子供は目覚めない。眠ってばかりいる。そして(ペーポーコマは)ンゴーと冷たくする。私は、この憑依霊の治療を人々にしてきたわ。アラーに感謝ね。子供が連れてこられて、あなたがその子を見ると、あなたはもうこの子は助からないなと思ってしまう。 H: そいつらは子供だけを捕らえるのですか? C: そう、子供だけを捕らえる。(自分の胸を指しながら)そいつはここ胸のところに入り込んで、それから駄目にするのよ。
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Hamamoto(H): つまり、その子供の母親の中にいる? Chari(C): そう。その子たちの母親のなかにいるのよ。さて、そいつは入り込むと、すぐにこの母乳の場所に入るのよ。子供が母乳を吸うと、すぐに嘔吐して、下痢する。母乳を吸うと、その母乳をすぐに下痢で出してしまう。 H: 発熱は? C: 嘔吐、発熱、(体じゅうの)関節が粉砕される。さてペーポーコマがそこで入ってくる。そいつは偉大なムルング(mulungu mubomu)その人なんだよ。 H: じゃあムドエは?ここには入ってこない? C: ムドエ、その仕事は(子供が)独りで口をむしゃむしゃ(mchwa chwa)することよ。ときには口の中から唾液がすっかり乾いてしまう。ああ、もう、あなた知ってるはずだわね。 H: なるほど、そいつらの症状(つかまえ方)は軌を一にしている、そして熾烈だ。 C: そう。5人も6人もが全員で一箇所によってたかれば、そりゃ熾烈だわよ、あなた。 H: でも母親自身(の身体)には害はない? C: 子供の母親にも害は及ぶかもよ。だって、彼女は妊娠しているかもしれないもの。母乳が出てくるの。妊娠が始まったばかりなのに、もう母乳が出てくる。 H: まだ出産しないうちにね。 C: そこで前もって先にあれらのピング(pingu)を縫ってもらうことになるのよ。出産したら、すでに(ムドエの)ピングを身に着けている。ああ、私はね、そもそも人から教えてもらったんじゃないのよ。私自身が夢で見たの。それだけ。ああ、そもそもね、癒やしの術はとっても難しいわ。
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Hamamoto(H): ところで聞くところでは、ムドエをもっている人は、犬の血を与えられるそうですね。 Chari(C): そう。犬を与えられて、歯で犬の耳を噛み切るのよ。もし憑依の状態がひどければ、徹夜のカヤンバを開いてもらって、夜明けに犬を殺して、その人に犬の肉を食べてもらうの。 H: ああ! C: そう。私の叔母(tsangazimi94)も食べさせられたわ。そのときの犬の革は彼女の子供が寝るのに使われているわ。今もよ。その彼女の子供はメダラカという名で、今はジョンブの町で椰子酒を売ってるわ。叔母さんはメダラカを犬の革に寝かせていたの。彼女が歩けるようになるまでね。 H: へえ!犬の革を敷いてもらってたんですね。 C: 敷かれていたのよ、マットレスみたいに。でも犬そのものは、肝臓を炒めてもらって、叔母さんはしっかり食べていたわ。メルワ・ンボゼ叔母さんよ。 H: 赤犬(茶色い犬)でしたっけ? C: 黒犬よ。赤犬は(憑依霊)サンバラ人(musambala95)の犬よ。 H: え、サンバラ人も同じように? C: そう。サンバラ人も犬をもっている。でも、憑依霊たちについては、あなたは少しずつ学んでいかないとね。 H: はい。
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C: 憑依霊(nyama)! あなたは、段階ごとに知っていかないと。全員をいっぺんに治療しないでね。ムルング、シェラ、ムディゴ、ライカ、プンガヘワ、デナ、そしてあれ、そしてこれ。全員を一緒にしてごらん、あなたは憑依霊たちとは失敗してしまうことになる。癒やしの術の知識は、与えてもらわないと。癒やしの術の最初の一歩はどこから始めたらいいの?ある場所から始めるでしょ、そしてそこでうまく行かなかったら、私はまた同じ場所に戻ってこないと。でも、もしあなた(施術の場に)やって来て、ほらよっ(hoo96)て薬液(vuo29)を差し出す。もしそれがうまく働かなかったとしたら、あなたには次の手が打てない。そうよ。頭の中で(霊たちによって)話してもらわなければね。
(参考)ベニィロ老人によるムドエの説明 ドゥルマ語テキスト (DB 238)
相談者の抱えている問題が、彼女の娘が出産した新生児の病気であることを言い当てた後、その症状が詳しく言い当てられていく。 子供の症状の描写 ドゥルマ語テキスト (DB 3380-3382)
例えば以下の描写のように、占い師はかなり詳細にその症状を言い当てている。
C(占い師): 熱いおしっこ。ときには色がついている。ターメリックみたいな色。 P(相談者): タイレ97よ。その子の母親が言ってる。熱くて、ただごとじゃないって98。 C: そして便もだけど、細い紐みたいな。 P: タイレよ。 C: 白い白っぽい紐状のね。もし私が、その子が血を排便していると言ったとすればね(私は間違っている)。でもその紐状の便、母乳をその子が吸ったら、即よ(便になる)。その子は ヌルヌルした便99を出す。さてときには嘔吐、その子がえずく。ゲロゲロ(fikifikifiki)ぶちまける。 P: そう。 C: (その子が)すぐに眠りに落ちてしまうのに気が付いた? P: 気がついていますとも。
症状に基づいて、診断がくだされる。6つの憑依霊すべての名前(+ライカ100)が挙げられる。母親の身体の中に居座っているこれらの霊が、母乳経由で子供に危害を加えていたのである。 原因となる憑依霊たち ドゥルマ語テキスト (DB 3383)
C: 地下世界(kuzimu)のペーポーコマ(p'ep'o k'oma wa kuzimu88)と池のペーポーコマ(p'ep'o k'oma wa ziyani)よ。キツィンバカジたち(vitsinbakazi101)とつるんでいる。母乳が水みたいになる。乳房を膨らせて母乳を水みたいにするのは、ムドエ(mudoe51)、ジム(zimu67)、キズカ(chizuka68)、スンドゥジ(sundzi50)たちよ。本当に病人なのは、その母親なのよ。ドゥングマレ(dungumale)、ジム、キズカ、スンドゥジ、ムドエ。母親に憑いているライカ(laika100)もね。わかる?ねえ、この子はすごく圧迫されてるのよ。とくに脇腹が締め付けられてる。排便したかとおもったら、もう一杯になっている。
3週間にもわたって、治ったと思ったらぶり返すの繰り返しであるのは、子供の中に原因があるのではなく、母親に原因があるからだと論じられる。
母親に原因が ドゥルマ語テキスト (DB 3384-3385)
6つの憑依霊すべてのピングを作ってもらう必要があるのだが、入院中の子供を退院できる状態にするための応急治療(hamehame)として、とりあえずペーポーコマのピングと煎じる薬の処方が指示される。
応急治療の指示 ドゥルマ語テキスト (DB 3387-3388)
相談者は二人の女性。占い師(Chari)と主にやり取りするのは、やや年長の方の女性(後に病気の子供の母親ムロンゴの姉であることがわかる)。占い師は問題が子供の病気であることを言い当て、その症状を詳しく指摘していく。高熱、お腹の張りと音、吐き気と便秘、高熱の一方で手足の先が冷たくなることに特別な注意を向けている。そして全身に力が入らず、立たそうとしてもぐったりしているなど。母親の母乳を拒み、いつも口をモグモグさせている。
病気の子供の母が、相談者の同伴者の方であることを当てた後、本当の病人は子供ではなく、その母親だと指摘する。そして彼女の問題を逐一指摘していく。頭痛、動悸と不安など。彼女のなかにいて、然るべき処置がとられていない憑依霊たち、ライカとドゥルマ人の存在が指摘され、彼女は約束不履行の件を認める。 ライカは彼女の激しい頭痛と心臓に、「嗅ぎ出し(ku-zuza70)」の施術を必要としている。ドゥルマ人は下腹部の問題に関係があり、ンゴマの約束を果たす必要がある。 この二人の憑依霊は、子供の病気にも深く関わっているより深刻な原因である。
母親の母乳を水のように変質させて、子供を直接病気にしている古くからの憑依霊(しかもこれまでも占いですでに何度も指摘されていたらしい)については彼らのピングを処方して母子が身に着けることで小康を得させることができる。しかし最終的には、ライカとドゥルマ人をなんとかしなければならない。
以上のことから小康を得るための応急治療(hamehame)が提案される。
最後に占い師は、病気の子供の母親の嫁ぎ先における問題、そもそも嫁ぎ先の屋敷のなかで居場所をもてないでいること。夫すら煩わしく感じていることなど、を指摘する。しかし占い師は、問題を妖術の方にもっていくことを慎重に回避し、応急治療だけを強調して占いを終了させる。
(参考)ムドエのピングおよびライカのンガタを差し出す唱えごと
乳幼児の病気ではなく、母系親族のなかにムドエを持っている者がいて、それとの関係で差し出されたもの ドゥルマ語テキスト (DB 3358-3360)