1997年末からの今回の調査は、1997年8月にドゥルマの出稼ぎ者たちが多く居住するモンバサ・リコーニ地区で起きた動乱を人々がどのように語るか、に調査の焦点を向けた調査だった。が、大雨でキナンゴ地区に入るためのほぼすべての道が不通になっていた(主要な橋が流されてしまっていたため)。やっとの思いでたどり着くと、なんと私の友人の一人でもあったMw...さんが、妖術使いだとの告発を受け、パパイヤのキラボ(chirapho1)で有罪が確定し、「ジャコウネコの池」村は不穏な空気。ことの経緯を把握し、Mw...の処遇を巡る話し合いなどに参加するなど、調査はもっぱらこちらに向けられてしまう。しかもこの事件がきっかけで、人々がこれまでこっそり胸の奥に仕舞い込んでいた妖術疑惑が、一斉に噴き出していた。私の好奇心も全開してしまった。今回はこの2本だて。憑依霊関係はやや手薄になるしか。 交通の悪さと物資の不足で、調査地に落ち着くのにも時間がかかった。そのなかで、チャリの実の姉(ムパ(Mupa)、通称カベンデラ(Kabendera))の死の知らせを受ける。その後、憑依霊の施術師でもあった姉の施術用の編み袋ムコバ(mukoba2)を「上げる手続き」、それを通じて明らかになったチャリ一族の癒しの術の継承の系譜など、いままで得そこねていた情報が。
(1998/01/05 Mon, kpwaluka3の日誌より)
...10時過ぎに砂糖500gをお土産にチャリの家へ。チャリたちは昨日チャリの実の姉ムパの死を知らされて、ガンディーニ4まで出かけるところ。で、今日のウガンガ5は中止となった。たまたま来ていた患者に対して、止むなくペーポーコマ6のピング18のみを処方。チャリの所にずっと滞在していたウ...にkukokotera111し、ムドゥルマ29のムハソ43を処方。チャリ自身がおなかの調子が悪く、ムリナがチャリに対してmakokoteri114。ガンディーニまでのバスは道路が悪く走らないというので、自転車をムリナたちに貸す。
(1998/01/07 Wed, kpwisha115の日誌より)
チャリの所へ行くとちょうど出かけようとするところ。ムパの死に赴いたためにムカンバ116のせいで病気になったため。ムカンバは死者がきらい。カンバ族自身かつては死者を埋葬すらせず捨てていた。死者の小屋も死者の使っていたベッドもすべて燃やされていた。で、これはかつてドゥルマでマハナ118の死者を埋葬するときと同様だという話になる。つまり彼のすんでいた小屋と彼が使っていたミヨ119すべてが燃やされた。「すっぱい村」のペサはムカンバ(ンガイ117)の専門家。自身カンバの出身である。 チャリとムリナが徒歩なので、私もつきあわざるを得ず徒歩で「すっぱい村」まで。しかしペサは治療を拒絶した。彼女のヤギが死んだため。この山羊はムコバ2の山羊で死なれるとウガンガも kuyugika120 する。チャリによるとウガンガで稼いだお金はムコバに属している。お金がたまるとそれでヤギを買う。この山羊はムコバのヤギと呼ばれて、決してたたいたりしてはならない。叩くとこちらの心が ku-shononeka121 する。現にチャリの屋敷のヤギは、すべてムコバのヤギである。
カベンデラ(ムパの通称)の死の後の厄介な作業があると知った。それは残されたカベンデラの施術のムコバ(編み袋2)に対する処置である。それの継承者が親族内に現れなかった場合、ムコバはいったん「上にあげ」なければならない。それには男女二人の施術師が必要。「ムコバを上げる」なんて初耳。何年調査していても、こうした漏れた知識が出てくるのはしかたないことなのだろうか(と思ったら、1989/9/6のフィールドノートに記載があった。忘れていた(2026/8/22追記))。
(1998/01/10 Sat, kurimaphiri122の日誌より)
午前中チャリを訪問。チャリの亡くなった姉の息子オマリが来る。姉ムパはムガンガであったが、そのムコバを引き継ぐものがいないのでそれを「上にあげる kp'eza 」必要があり、その相談。どうやらチャリが行ってその手続きを行う模様。その説明を聞くことが出来た。 ムコバを「上げる」ことについて
そしてその流れのなかで、チャリの祖父デレからの癒しの術の継承の全体像がわかってきたのだが、そちらについては別稿: 癒しの術の継承を見られたい。
パラグラフ冒頭の[英数字]をクリックすると対応するドゥルマ語テキストに飛びます。ブラウザの戻る機能でお戻り下さい。
Murina(M): さて、私はこのような時間にお話することもなかったでしょうに。私がお話するとすれば、それはあなた全能のムルングに対してです。あなた全能のムルングこそ砦123の主です。 そう、私たちは病気に驚いています。病気そのもの。チャリは病人そのものなのです。もちろん私たちはできることはやっております。しかしながら、どれも全くうまくいかないのです。さて今、もし私が全能のムルングが軽視されている、なぜなら、ムルングを蔑ろにしてはいけないのに、憑依霊ドゥルマ人に(ものが)買い与えられたから、と言ったとすれば。昨日、私はあちらにもどり、再び買いました。なぜなら私はまるで債務者、そして約束をするとすれば、すでに約束はいたしました。 今は、どうかあなたの布(nguo124)をお受け取り下さい、あなた全能のムルングよ。これがゼンゲザ(zengeza129)です。まだ調えられてはおりません。これがやってきたばかりとしたら。あなたの布をお受け取りになり、お解きほどき下さい。お解きほどきくださった後、新たな問題があり、申し上げます。わたしども人間は死ぬ者です。産まれてきて、そして死にます。 Chari(C): このムコバ(mukoba2)は、彼女のところからでてきたものです。 M: さて、言わばムコバの主畑(dzumbe130)そのものである者が、この度ムルングに召された者なのです。あなた全能のムルングに申し上げます。今、この者(チャリ)はあなた方の施術上の祖母であるその死者に、会いに参ります。そちらに着いて、ますます驚くことになりませんように、私のキョウダイの皆様。この者に、この者に病気そのものを注ぎ込まれませんように。彼女だけなのです。前にも、後ろにも他の者はいません。あちらにいる者たち、残された子供たちは、彼女が来るのをじっと待っております。
Murina(M): さて今、私は解きほどきを欲します。私も出発いたします。そう私も彼女とともに参ります。彼女こそ私の伴侶なのです。ムルングによってなされた仕打ちに、二人そろって驚きに参らせて下さい。あなた方のほうでも、どうかおとなしくしていてください。後に、そちらを発ったのちに、私に涙のンゴマ(ngoma ya matsozi131)を開催しに参らせて下さい。私たちは一層の感謝をいたします。あなた全能のムルング、ご一緒におられる、ペーポー子神(mwana p'ep'o132)、憑依霊バラワ人(mubarawa137)、憑依霊バルーチ人(bulushi138)、憑依霊クヮビ人(mukpwaphi139)、キツィンバカジ(chitsimbakazi45)。あなた方こそ砦の主、まさしく彼女が後に残した方々。 私は皆様方におだやかにと申します。シェラ(shera37)の皆様方もいらっしゃいます。憑依霊ディゴ人(mudigo97)の皆様方も、ルキ(luki140)の皆様方も、いらっしゃいます。私は皆様方におだやかにと申し、報告(ripoti)を差し上げます。私どもは埋葬に参加しに参ります。どうか、来て驚かれませんように、私のキョウダイの皆様。これは全能のムルングのご予定(ajenda= agenda)なのです。誰にも反対はできません。そして死んだ者は埋葬されます。残るのは生きている者たちです。さて、今、私は皆様方に対してお誓いいたします。あなた、ディゴ女(muchet'u wa chidigo106)よ、あなたシェラよ。あなたは驚くと後ろをご覧になる、あなたディゴ女は。さて今は、この問題は両の肩にあり、けっして下ろすことはできません。なぜならまさに私たちの問題だからです。(亡くなったのは)ねえ、彼女、ムコバの祖母なのですから。行き、埋葬しに行き、そして帰ってくる。それも良好に。私どもは、そして涙のンゴマを開催いたします。 私はお話いたします。あなた憑依霊ドゥルマ人(muduruma29)に、あなたカルメンガラ(kalumengala30)、外の問題もご存知、内の問題もご存知という、あなたに。あなたは、またの名をムルング・マランボ(mulungu marambo141)、子供は嫌い、着飾るのが好きというあなた、またの名をシャカ(shaka142=災難)、またの名をムガイ(mugayi143=貧乏人)。災難は家に到来しました。災難とはなんでしょうか。人が死んでしまったのです。しかもあなた方の癒しの術の大物癒し手、あなた方の祖母がです。さて、今は、どうか端っこの方に腰を下ろして、おとなしくしていて下さい。その災難を見舞いに行き、それが終われば、私たちは涙のンゴマをうちに参ります。なぜならその災難は他人のではなく、私たち自身の災難だからです。
Murina(M): 私は中にいらっしゃるすべての皆様ひとりひとりにお話いたします。コーランのアラブ人(mwarabu kuruwani144)もいらっしゃいます。ロハニのアラブ人(mwarabu rohani145)も、ペンバのアラブ人(mwarabu mupemba146)も、スディアニのアラブ人(mwarabu sudiani61)も、メッカのアラブ人(mwarabu makka148)も、ジキリ・ナビ(dhikiri nabi150)、ジキリ・マウラーナ(dhikiri maulana151)、ジキリ・マイティ(dhikiri maiti152)、ペンバのジャバレ子神(mwana jabale wa chipemba153)、天空に御座しますジャバレ、世界導師(mwalimu dunia154)も。ムサガヤ(msagaya158)もいます。憑依霊ガンダ人(muganda160)もいます。ガンダ人、いっしょにいるのは憑依霊セゲジュ人(musegeju165)、果ては、憑依霊サガラ人(musagala159)、憑依霊コロメア人(mukoromea166)、憑依霊ナンディ人(munandi167)。憑依霊ナンディ人は、別名憑依霊カンバ人(mukamba116)。カンバ人は死体を見ることを嫌悪する。あなた方、上の方々(atu a dzulu169)もまさにそう。 今は、はい、私は皆様方におだやかにと申します。今日は、小屋の入り口にそれ(死=chifo)は倒れました。私たちになにができましょう。前もって平安を差し出すこと以外に。皆様方に私たちが行くということを、ただし良きことに向かって行くのではなく、悪しきことに向かって行くのだということを、知っていただくように。腰を下ろして、おとなしくなさって下さい、皆様、そうすることをしっかり、しっかりご存知のように。ああ、彼らは死の場所に行くのだと知り、たくさんのたくさんの問題をここに投げ出すこと、あなた憑依霊カンバ人よ。あなたはよくご存知です。何度も間を明けず下痢を起こすことも、あなたの仕業です。高い体温もあなたの仕業です。あなたお一人(の仕業です)。おだやかに、私は、あなたに、ごめんなさい、お静まり下さいと申します。 御覧なさい。今問題は、小屋の入り口にあります。私たちがそれをどうしようというのでしょう。それは私たちの問題です。おだやかに。だから、どうか身をお引きになって下さい。後ほど、あなたには浴びるための薬液を差し上げます。私は皆様におだやかに後申します。あなた天空に御座します者、世界導師、あなたヘビのなかのヘビ、おだやかに、私のキョウダイよ。そう、しっかりおだやかに。身をお引きになって、おとなしくなさってください。私どもに、その困難に取り組み、それを終え、ここに戻って来させてください。私は、その途上で、また問題が起こることは嫌です。旅を全うできるよう願います。下痢そのものであれば、それを封じて下さい。この苦難、ムルングによって落とされたこの苦難に、面と向かわせて下さい。 そう、おだやかに、私のキョウダイよ。ご主人様、私はこのことを証言いたします。そして声に出して、平安を乞い願います。全能のムルングへの平安です。ご傾聴下さい、私のキョウダイたちよ。ご主人様方、争いはございません。おだやかに。私の言うことは、これだけです。
Chari(C): (同行している近所の女性に)ねえ、あなた、その人は私の同腹の(ndani mwenga)お姉さんなの。その人が死んだのよ。私は言ったの。「私ももしここにいたら、死んじゃうわ。家に帰りましょう」 Woman(W): 「自分の家で死なせて」ってね。 C: 私はあれら私の子供たち170をそこに残してきたの。年若い親族たちをね。生の服喪もやらないし。あの子たちは、日中、静かに暮らして、水は汲んできてもらって。... W: どうして生の服喪が開かれないの? C: 皆んなで服喪は開かないと決めたのよ。でも、それが妥当よね。 W: なるほど。コレラが流行っているからね。 C: そうじゃないのよ。ねえ、服喪には「持ち主」たちがいるものよ。服喪には「持ち主」がいる。人間はことをなすべき。でも「こと」は人ではありません。あの人たちは、「こと」を整えることはない。あの人たちは「彼が私のためにやってくれます」と言える人がいるから、そこにやってきます。 W: わかるわ、お母さん。私自身、見たから。マブウェーニ(地名)の彼らの屋敷、さて人が亡くなります。そこには私の父の弟が一人まだ住んでいて、今は死んでるけど、その屋敷に本当に長く滞在していたの。その人は言われます。「どうするね。そのお前の奥さんだけど、どこに埋葬されるんだろうか?」「マブィンブィリニ(地名)に行くよ。私の兄がいるので。」「彼女を家から、何といっしょに出すんだい?」「雌ヤギ1頭さ」「服喪はあるの?ないの?」「服喪はやります。」遺体を出すときには、その雌ヤギが屠られました。
Chari(C): 私の姉さん、猫のように死んだわ171、彼女。 Woman(W): 男の子供はいないの、彼女? C: とっても小さい(若い)子なの。さっき来てた(チャリたちの屋敷に)あの子供のほうがまだ大きいくらい。 W: ああ、難儀だわねえ、あんた。 C: それに女の子が一人だけ。その女の子は嫁いで、その夫のところに行ったんだけど、夫のところで暮らした後、またそこ(母の屋敷)に戻って来たの。 W: 遺産はないのかい。 C: ああ、ディゴでは遺産はないのよ。お姉さんはまるで猫みたいだった。さて、ドゥルマがよく言うように「それが彼女の運命だったんだ(自分でそんな風に書き記していたんだ)」って。どんなもんだか。 W: ああ、自分でそう書き記していた。もしあなたが(誰かに)斬り殺されたとしても、キョウダイさん、それはあなた自身が書いたこと(運命)なのね。 C: さてさて、彼女はしっかり書いていたわけね。 W: ええ。私はこっちに行くわ。私のキョウダイさん。 C: ああ、私は、そう、ペサさんのところに行って、唱えごとしてもらうわ。
hanga3 (施術師ペサの家で)
Chari(C): ...私はパラ(人名)の廃屋跡に立ち、「さあさあ、皆さん、論争は終わらせましょう」と言いました。「私は一昨日さえ、家では寝ていません。確かに、同腹のあなたのキョウダイです。すでに到着しました。あなた、でも、今、私はもう無理なんです。昨日、あちらに来た方々に、私は言いました。「たくさん薪を集めてくださいな、夜が明けたら、屋敷の方においでなさい、あなた方」と。彼女自身はキョウダイなのに、子供たちをあちらに放置して、彼女はそこを発った、とはどうか言わないで下さい。こう言うわけなのです。私はすでに墓は見てまいりました。 Murina(M): ねえ、御婦人、私はこの人を連れてまいりました。薬液(のための草木)を集めてきて、彼女のために憑依霊ンガイ(ngai117)に唱えごとをしてくださいな。 (録音はここまで、この後、フィールドノートの記述にあるように、ペサは「ムコバのヤギ」が死んだので、この日は施術ができないと依頼を拒絶。我々はやむなく帰宅する。)
Chari(C): お悔やみのカヤンバだわね。マブィンディさん(故カベンデラの施術上の父)はお元気?まだ彼は(ムコバ(mukoba2)を引き継ぐ候補の)子たちを見つけてないの? Omari(a son of Kabendera, O): マブィンディさん、昨日はあちらにいました。マブィンディさんが私に言うには、「君のお母さんは、キナンゴにいるんだね」私は彼に言いました。「はい。」彼は言います。「君の母さんに会って、草木を探し採って来るようにとだけ伝えてよ。草木を(チャリ自身の)ムコバに入れて、こっちに来て、あの(カベンデラさんの)ムコバ(mukoba)に唱えごとをしてもらい、こっちでムコバを洗って、その後で、麻袋でいいからその中に入れ、上に結びつけて(封印して)おいてって。それだけ。これで問題は終了。あとは、その癒しの術が、自分で(継承者を)探し求めなければね。人を手に入れるまで。」 C: 家の中の高いところに封印しておくの、それとも家の外? O: 家の中ですってば。つまり良好な場所に置いておいて。 Hamamoto(H): それって、いったい何の施術なんですか? C: さらにムコバに唱えごとするのに、ちょっとしたカヤンバ演奏はなし? O: いいえ。彼が言うには、カヤンバは、そこでカヤンバを開くのは、おそらく憑依霊を持っていて、その癒しの術を求めている子供がいる場合でないと。そのときにはンガッとなるまで(辺りが明るくなるまで)カヤンバで夜を徹して、その子にそのムコバが与えられるでしょう。というわけで、カヤンバはなし。 C: (Hamamotoに向かって)先日亡くなった女性の話よ。そう、私のお姉さんなのよ。そしてこの子が彼女の息子。そちらにいる小さい子が彼女の孫よ。さて、彼女は施術の編み袋ムコバを残したの。私のお姉さんは。さて私は先日それをきちんと置くことは、自分は無理って思ったの。どうしてかって?ねえ、彼女、彼女には施術上の父がいる。そこで私はあの子たちを遣ったの。彼(カベンデラの施術上の父)を探してきてって言って。というわけで昨日、彼がつかまったんだけど、彼は私に命じたわけ。私が行って、そのムコバに乳香を焚いて、それに縷々語りかけ、それが済んだら、そのムコバを封印しなさいって。私にそれを上の方に封印してって。だってその主がもういないんだから。
Hamamoto(H): そのムコバはもう二度と使えないんですか? Chari(C): ちがうわ。ムコバ自身が探すまでは使えないの。男の人を手に入れるかもしれないし、女の人を手に入れるかもしれない。でもそこでは誰一人見逃してもらえる者はいないでしょう。必ず一人が連れて行かれちゃう。 H: 見逃される者はいない。なんとあなたのキョウダイは強力な施術師だったんですね。 C: この私のムコバもね、あちら、彼女のところから出たのよ。 H: そうなんだ。 C: 私は彼に伝えたのよ。私のために薬液(のための草木)を探し採ってきてって。私が(薬液を)浴びられるように。そう、(病気を、あるいは憑依霊を)鎮めるためよ。もし(生(なま)の)服喪(hanga)だったら、人々は前の日に水浴びしていたことでしょうね。さて、私は、(姉の死の場所に)着いて以来、薬液(のための草木)を採ってません。つまり前々日来、私は薬(mihaso)(のための草木)を採りに行ってなかったの。で、彼に伝えたわけ。私が浴びられるように、私のために薬液(のための草木)を探し採って来てって。さらに彼ら瓢箪(子供)たちも泣いているのよ。私が(薬液)を浴びて、その子たちを(薬液で)洗ってあげないと。(カベンデラの)ムルングの瓢箪なんだけど、それは(カベンデラが)ムァバンズにあげたものなのよ。そして今度はムァバンズが私にくれたの。その瓢箪が泣いているのよ、私を驚き当惑させてるのよ。それはますます激しく泣いてるの173。 H: ムァバンズさんはカベンデラさんとどんな関係ですか(なんと呼んでいるんですか)? C: 大きなお母さん(実の母親の姉)でしょ、もう。私にはカベンデラは施術上のお祖母さんよ。(チャリの瓢箪子供の)お祖父さんね、ムァバンズは174。それは、ムァバンズからいただいたものよ。先日来、泣いているのよ、その瓢箪。全然、休むことなくね。重みもないのよ。ただ、私に来て洗ってもらいたがっているのよ。そう、だからあの人(カベンデラの施術上の父)は、結局、間違えているのね。彼、間違いを犯したのよ。だって、それ(瓢箪)は何をして欲しがってたの?彼がやって来て、もし私もそこにいたのならね。だって(瓢箪子供は)女性と男性(二人の施術師)が与えるものよ。「外に出す」際にね。施術師を外に出すのは、男女二人じゃないの。そうよ、正しくは、彼と私がいるはずだったの。でもあの人は怠惰なのよ。あの人。
Omari(O): でも、そもそもあの長老ご自身ではないんじゃないですか、それをする人は。 Chari(C): 彼があれこれと話して、話し終えて、その後で、私が話したのよ。さあ、その編み袋ムコバを私たち二人でもって来て、いっしょにそれを安置しましょう、ってね。 Hamamoto(H): つまり(ムコバは)男女二人の(施術師によって)上に置かれるのですね? C: そうよ。そんな風に男女二人で上に置かれるのよ。私は、それをするのを嫌がってました。どうしてかって?人とその瓢箪たちを軽視しちゃだめなのよ。「ねえ、あなた。(カベンデラ)はあなたの施術上の子供でしょ。あなたの子供の墓を見にいらっしゃったんでしょ。嘔吐にくるしんでいるあなたの奥さんが、いまどうなのかかは知らないけど。」 O: ああ、もう大丈夫なようですよ。 C: ああ、あんた、結局、私たちが行って終わらせることになるんでしょうね。
4 (ムリナ氏、会話に加わる)
Chari(C): 一昨晩、そして昨晩。 Murina(M): 君が彼にそう言ったら、彼は何て言った? Omari(O): 彼が言ったことには、ムコバについては心配ない、キナンゴのお前のお母さん、彼女が来て草木を探し採ってくれるよ。それから、彼女が(ムコバを薬液で)洗って、こちらで(乳香で)燻してやる。それだけ。それが済んだら、彼女が(ムコバのために)場所を見つけて、(ムコバを)上に置いてやる。それで全部終わり。あとは(ムコバが)自分で探して、人が手に入れば、さあ、ムコバのためにンゴマを打ってやって、徹夜する。 C: ねえ、それじゃ彼、私にいっしょにそこにいるように指示すればよかったのに。ムコバを洗うのも、男女二人なのよ。さらに(ムコバを)上にあげることについても、同じく男女二人(の施術師)であげることになってるんだから。「おだやかに。皆様方、自分たちは放置されたなどとおっしゃってはいけません。それはまさに、ムルングのお決めになったことです。あなた方のお母さん、彼女本人は、もう(この世に)おりません。」さあ、私は(ムコバを)燻します。彼も同じく燻します。さて、えーと誰だっけ、メジュムヮ。メジュムヮさんが呼ばれて来たんだけど、帰っちゃったと。だって、(ムコバは)一人の人間だけによって燻されちゃだめなんだもの。そして上にあげるのも、一人の人間だけによってじゃだめなの。さて、(ムコバが)「上にあげられ」ることになりました。キナロルワ(人名)のムコバだけど、あのジュムヮさん、ジュムヮ・ワ・カゾヨは言ってたわ。「私、ムコバを上げるには、どうやったらいいの?父方叔母さん(tsangazimi175)のムコバなんだけど。」「ああ、ムコバなら心配ないよ。その所有者(死んだ女性)自身が、私を(夢のなかで)訪ねてくるので、そうしたら私は行きますから。」 O: つまり、もう(夢であなたのところに)来てるんですか? C: ああ、休み無しよ。そう言ったでしょ。でも、この人は私を殺しはしないわ。
Chari(C): あれら、そう、あれら2名のことだけどね、ムコバは人なの。女と男(から産まれる)。あの人(ムブィンディさん)は罪(dambi)を犯したのよ。罪ってわけでもないわね。ムブィンディ本人は、昔から横着だわ。そんなわけで、あのムブィンディさんって、何ていったら良いかな、彼の分別はなんて言うんでしょう。 Omari(O): ムブィンディさんは、あなたが彼を好いていれば、ムブィンディさんのところに行って腰を落ち着けることができる。あなたが急いでいると見ると、彼はあなたに瓢箪を渡して言う。「先に帰ってなさい。私もすぐ行きます。」 C: はあ、あなたは瓢箪といっしょに座っている(待っている)わけね。 O: 瓢箪といっしょに座っている、疲れてしまうまで。彼はと言うと、あちら(彼自身の屋敷)で治療している。 C: なに?つまり彼はあなたにムコバを「ほら」(と言って渡して)、「それをもって先に行ってなさい」って言うの?「私は向こうで何をすればいいんだろう?」「私はすぐ行きますよ。」で、彼はやって来ない。 O: 彼は別のムコバをもっているんだよ(そのムコバでやって来た別の患者の治療をする)。 C: 彼は別のムコバをもっている。そしてやって来た人は、彼に自分のためにブッシュに生えている草木を探し採ってもらいたがっている。すでに待たせることになる。じゃあ、瓢箪たちをすでに渡してしまって、草木の茎は彼(施術師)本人がそちらに持っていく、というのでいいのでは? O: でも、それは施術のきまりには反しているということになるんじゃ? C: そんなことないわよ。でもそれも度を越さないようにしないとね。もしかしたら、度は越しているかも、でも実施においては度を越さないように。施術は、良心をもってやらなくちゃね。(実施が遅れた結果)「あああ、わが子は死んでしまった。」じゃあ、それまでだものね。 O: その人は悲しむよね。で、「施術師が私の屋敷に来て、そこで(施術したにも関わらず)死なれてしまった、というのならまだしも」って言う。 C: たとえ、結局は生き返らない(回復しない)としても、彼に子供に対して何かできるんじゃないか。 O: 彼(子供の親)は言うでしょう。施術師が私の屋敷で子供に死なれる方がまだましでしょう。もし憑依霊の問題だったら、死んだりしなかったでしょうし。 C: ああ、私ですら、そんなふうに言ったことがある。心からね。でもそれはムルングに指差されていること(ムルングによって定められた運命)なのよ。 Murina(M): 指差されちゃってることなんだよ。 C: 指差されちゃってる。以前から、人が病気になると、その人がここに連れてこられるか、または私が呼ばれて行くのよね。私がそこに着いてみると、私には、この人は治らないわとわかることがある。それでも治ることもあるのよ。何を使うにせよ、人々は分かれるのよ。こちらの、えーと、死の方へ行かないで済む人(と、そうでないのとに)。そして死は、抗議しても無駄。逆らえないの。私たちはたしかに悲しむわ。こんな風に歩いていても(生きていても)、この私の身体には何の力も残ってない。でも、(たとえ)ムコンガーニ(地名)(のような遠方)にだって、私は(呼ばれたら)行くでしょう。
Murina(M): さて。私はこのような時間にお話することはなかったでしょう。私がお話するとすれば、そう、私はあなた全能のムルング(mulungu78)に、ペーポー子神(mwana p'ep'o132)、憑依霊バラワ人(mubarawa137)、キツィンバカジ(chitsimbakazi45)とごいっしょにお話しいたします。皆様こそ、砦の主たちです。これは薬液(vuo11)です。そう、光の薬液です。これは光の薬液です。涙の(薬液)でしたら(その草木は)すでに探し採っております。今、この薬液は、脚を解きほどく薬液、分別を解きほどく薬液です、これは。私たちもまた、他の施術師たちのところへは参りませんでした。この薬液は私たち自身の薬液です。だって、そう癒しの術は、同じ一つのものです。今、そうです、私はつつがなきことを願います。脚の不自由な者も一層努力して歩むもの。脚は解きほどかれよ。ここで、私ども施術師が、もし何も全くしなかったとしたら、飢えで死ぬことすら、私たちはただ死んでしまうのではないでしょうか。 さて今、この薬液、これは私自身が(そのための草木を)採ってきたものです。どうしてでしょうか?私たちの、すべての関節が解きほどかれますように。死(chifo)のことは、私たちは諦めました。なぜなら死んだ者は、戻ってこないからです。皆様方にはンゴマを差し上げます。この薬液は、すべての関節を解きほどき、分別を解きほどき、脚を解きほどくための薬液です。私たちがお金を貯め、ンゴマを開催できますように。 さて、おだやかに、おだやかに、おだやかに。今は、どうかおだやかに。分別(思考)が健全でありますように。悪い考えはもう、なくなりますように。この薬液は、仕事を解きほどく薬液、つつがなさを解きほどく薬液です。死んだ者は戻りません。どうか皆様、彼女(死んだカベンデラ)のことは考えないで下さい。あの者はメッカに行ってしまった者、もはや考えても仕方がない者です。今は、そう私は解きほどきを欲します。身体が冷めますように、身体が冷めますように。今はもはや争いはございません。身体が焼けることは、なし。人は食事をとり、心は食事と折り合い良し。 今は、おだやかに、おだやかに、おだやかに。池の皆様方、おだやかに。ムァチェ(Mwache176)の皆様方、おだやかに。キムヮンギリ(Chimwangiri おそらく池の名前)の皆様方、おだやかに。キグルフュラ(Chigulufyula178)の皆様方、おだやかに。ゾンボ(Dzombo179)の皆様方、おだやかに。おだやかに、マカンガ(makanga)の皆様、おだやかに。おだやかに、キツァンゼ(Chitsanze180)の皆様、おだやかに。おだやかに、私のキョウダイたちよ。ご主人様方、ご主人様方、ご主人様方、ご主人様がた。今、そう、この薬液は、薬液です。
7 (ウマジ、チャリに薬液を注ぎかけながら。なお以下の雑談部分は、記憶にないためよく意味がわからない箇所、多々。)
Umazi(U): 彼女は私と一緒じゃなければね。 Chari(C): 彼女、服をもってないんだって? U: 彼女痩せちゃったわ、お母さん、あなた。 C: 痩せたことはかまわない。そもそも、その方がきれいに撮れるわ。 Murina(M):(唱えごとを続けている) おだやかに。解きほどけ、解きほどけ。身体を解きほどき、健康になりますように、ご主人様。 ねえ、どうして皆さん方、唱えないんですか。唱えごとしてるのは私一人。 (再び唱えごと)ああ、お静まり下さい、私のキョウダイたちよ。 U: 彼女、私と一緒にいる必要があるわよ。彼女は、私といっしょにいる必要があるって知らないみたい、私。ねえ、私が彼女といっしょに出発したら、彼女は大事なこと忘れちゃうわ。 M: じゃあ、私はどうすりゃいいんだい。 C: もしあなた方が服喪で(地面で)過ごしていたとしても、服喪は終わってるわ。たとえ服喪が開かれなかったとしても、皆さん、身体が重くなっているはず。だって(地面で)過ごしていたんだから。昨日が、皆が水浴びする日。 U: 人々は昨日、水浴びした。(規則で、その日に)水浴びしないといけないんだから。 C: 彼らと一緒にはいられないわ。こんな風につかんだら、もう荷物そのもの。 M: (再び唱えごと) さて、そう、もう悲しみはありません。仕事をすること。あの人はすでに亡くなりました。死んだ者は戻りません。今は、そう、解きほどけますように。お金を稼ぐことができ、仕事を乞い、仕事を解きほどく、これこそ私が望むこと。しっかりとンゴマを打ってもらえること。 Bakhari(B): ドコドコ、ンガーッ(辺りが明るくなる)まで。 Omari(O): 私もそこにいたいな。カヤンバをもうバンバンたたいてやる。 U: 水を浴びさせられた人たちも、いることでしょうね。さぞかし、(カヤンバ演奏の回りを)何重にもとぐろを巻くんじゃない? M: あんたは、私といっしょにあちらに行こう。わかってると思うけど、もし賃仕事に戻るなら、お金が必要になるよ。早めにンゴマを開きましょう。涙のンゴマをね、しっかり皆さん全員で。私が言っていること、理解できてますか? B: しっかり受け止めてますよ。仲間たちといっしょに来た彼、彼は勘定に入れないよ。 O: でも彼、(死んだカベンデラの)キョウダイだよ。彼の家をでて、まさに彼の家をでて、水場にたどり着かなかったんだよ、そこで亡くなった。彼は私に告げに来た。「ああ、彼女、その病気でそこまでたどり着いた。屋敷まで運んで上げてよ、彼女を。」って。 M: (ムリナ氏、チャリの瓢箪子供たちを薬液で洗いながら、瓢箪に唱えごと)皆様方の油(mafuha)は、ご主人様方、蜂蜜が必要です。 Hamamoto(H): それが、今手に入らないんですよ。モンバサですら。 M: 手に入らない。見かけない。まだ手に入れられないでいます。 U: あの、あちらのムヮンゲマさんのところは? M: ムヮンゲマ、わからないな。蜂蜜をあつかっている時もあるけど、彼。この子、この子、この子、彼ら全員(瓢箪子供)、蜂蜜なんだよね。蜂蜜を必要としている者たちがあと5人いる。 H: カシディ、世界導師、それに憑依霊セゲジュ人、それにシェラとデナ、ですね181?
本当なら、チャリさん夫婦が直面するこうした問題にはきちんと同行するところなのだが、出発前から決めていたテーマと、フィールドでいきなり遭遇した私の近しい友人に対する妖術告発をめぐる近隣の人々の動向に照準を合わせ続ける必要から、「ジャコウネコの池」村をできるだけ離れないようにするしかなく、チャリさんの姉の死の場面(ガンディーニ、徒歩、自転車で行き来するには遠すぎ)にも行かず、その姉のムコバ(mukoba2)の処理も実際にみることもなく、お話だけで我慢するしかなかった。というわけで、やや限界のある資料しか提供できていない。しかし、憑依霊の施術師と死の関係について、理解するヒントぐらいにはなるだろう。
1月4日、チャリたちは姉カベンデラの死の知らせを聞く。これでチャリは同腹のキョウダイの最後の生き残りとなった。上の世代の唯一の人間として、指示が仰がれるところである。ドゥルマでは親族の死の知らせを受け取った者は、何を置いても駆けつけなければならない。特に責任ある立場であれば、なおさらである。しかしチャリの体調は悪かった。出発は翌日になった。激しい下痢と腹痛。知らせを受け取ったからか、その前からだったのかは聞きそこねた。そのタイミング次第で、この激しい下痢が、どの筋書きに、そしてどのような対応策に接続するかが微妙になる。
憑依霊たちは、一般的に「死」を、そして「死体」を嫌っているとされている。とりわけイスラム教徒系の霊たち(なかでもジキリ・マイティ(zikiri maiti152)は、死体の臭いを嫌い、埋葬や服喪から帰った後には、ローズウォーターなどで身体を清めねばならない。イスラム系の霊を持っている人は、そうした場に赴く場合、身につけているピング(pingu18)やヒリジ(hirizi19)を外して行く。
清浄さにこだわるイスラム系の憑依霊でなくても、死の場面は憑依霊によるトラブルを引き起こす。その場合、しばしば憑依霊が単に死を嫌っているからとは言えないような説明がなされる。憑依霊は、人間を超えた能力を持ち、人が知り得ない情報に通じている存在で、だからこそ、憑依霊の助けを借りたムブルガ(mburuga182)と呼ばれるタイプの占いが可能になる。しかしその反面、憑依霊は人間どうしの社会関係や感情の機微には通じていないとされる。近親者に死なれると、人は悲しむ。宿主が突然悲しんでいることに、憑依霊は怒る(ku-tsukirwa)。「なぜ私の母は泣いているのだろう。私のことが嫌いになったのだろうか」そう考えて怒り、悲しむのである。そうなると宿主は、いつまで経っても泣いてばかり、そして病気になる。占いの結果、憑依霊が怒っているのだとわかる。その場合に開かれるのが死を悼む(お悔やみの)カヤンバ(kayamba ra pore)である。そこで憑依霊(たち)に対して、宿主の近親者が死んだのだ、それで宿主は悲しんでいるんだと説明し、怒りを解いてもらうのである。
憑依霊は死の状況との接触、あるいは死の状況で宿主が動転していることに怒り、宿主を病気にする。これがカベンデラの死をきっかけにチャリが病気になることの説明その一である。しかしもしチャリの症状が、死の知らせの前に始まっていたとしたら、別のありふれた可能性が考えられる。チャリのように多くの憑依霊を抱えている人は、すべての憑依霊の要求を満たすことは到底無理なので、要求が叶えられず不満を持ったままの憑依霊たちがいる。それらの憑依霊は、同居している他の憑依霊の要求が叶えられるとそれに嫉妬し、宿主を病気にするかもしれない。
すべての病気を憑依霊との関係で考えなくてもよかろうにという感想はもっともである。しかし憑依霊との共生が長い人は、まずは憑依霊の問題を真っ先に考える。次が妖術使いの攻撃の可能性。そして今回のように大雨被害の影響でコレラが流行っていることなどは、ほぼ考慮の対象に挙がってこない(私は滞在中それが一番気になっていたのだが)。
冒頭、死の知らせを受けたチャリ夫婦がガンディーニへ向かう前に、ムリナ氏が憑依霊たちに対して語りかけている唱えごとには、上述の2つの筋書きに基づく対処がともに込められている。
どうやら死の知らせに先立って、チャリたちは彼女の持ち霊のなかでも重要な位置を占めている憑依霊ドゥルマ人に、ドゥルマ人の布を買い与えていたらしい。憑依霊の筆頭者ムルングを差し置いて、ドゥルマ人の要求を先に叶えたこと、これが問題かもしれない。唱えごとの中にあるように、ムリナはさっそく昨日(死の知らせを受け取った日)にキナンゴに走り、ムルングのための布を購入してきた。まだビーズ飾りを施していないが、もしムルングがこの問題で、彼女の症状を引き起こしているのであれば、この布を受け取ってどうか鎮まって欲しいというわけである。
しかしメインの対処すべき筋書きは、まさにこれから二人が死の状況に赴かねばならないという問題である。生き残っていた実のキョウダイの最後の一人である姉カベンデラの死にチャリは動転している。カベンデラはチャリのキョウダイたちやその子供たちの世代にチャリの祖父デレのムコバを広める端緒となった女性、チャリの施術上の祖母である。当然現地ではさらに動転するだろう。すると彼女の憑依霊たちも「おどろく」ことになる。それによって彼女の病気がさらにひどくならぬよう、まずはムルングにそして他の憑依霊たちに懇願している。そして帰宅した後に、盛大なカヤンバ、「お悔やみの(死を悼む)カヤンバ(kayamba ra pore)」を開くことを約束している。ムリナ氏が「涙のンゴマ(ngoma ya matsozi)」と呼んでいるのはこの「お悔やみのカヤンバ」のことである。
最後に死の状況を嫌悪するイスラム系の憑依霊たち、そしてとりわけ死体を嫌悪する憑依霊カンバ人(mukamba116)とヘビの中のヘビ世界導師(mwalimu dunia154)におとなしくしていてくれることを懇願し、唱えごとを終えている。
親族の死は人にとって大きな困難の場面であるが、憑依霊を抱え込んでいる人にとっては、さらなる困難が予想される場面なのである。
チャリたちはガンディーニでは一夜を過ごしただけで、翌日の夕方6時すぎに帰ってきた。翌朝、施術を求めて「酸っぱい」村の施術師ペサを訪問。その道すがら、ガンディーニの様子を聞く。案の定、病気は悪化したが、それはチャリがもっている憑依霊カンバ人のせいだという。ペサはカンバ人の治療を得意とする。途中まで同行した女性とチャリとの会話から、チャリはカベンデラの屋敷にいると死んでしまうと感じたらしい。ペサへの説明で述べられているように、ちゃりは死者の屋敷にはまったく入らず、屋敷外の遺棄された廃屋で過ごしたようだ。親族会議もそこで開かれた。残された遺族(enye afererwa183)のなかに服喪を取り仕切ることができる年長男性がおらず、チャリが最も年長で遺族たちの「母、祖母」なので、皆がチャリの指示を仰いでいるのだが、チャリの健康状態が悪いため、結局「生の服喪」は開かれないことになり、チャリは年少の親族たち(といってもオマリとかは立派な青年なのだが)を残してこちらに戻ってきたということのようだ。。
同行の女性が、自分の経験から年長の親族のいる屋敷に遺体を移して埋葬するという案を示している(遺体を移動する際には、ヤギを屠る必要があるという豆知識ゲット)。1980年代初めまでは普通だった3~4世代の親族が一緒に暮らす大きな屋敷なら直面しなかっただろう問題に、分散した小さな屋敷で暮らすようになったドゥルマの人々は対処しなければならない。
結局、チャリはペサによる治療は受けられなかった。あいにくペサのヤギが一頭死んでしまい、それがムコバのヤギだったため、その日は施術ができないのだという。憑依霊がこのことで怒り、悲しんでいるためである。施術で稼いだお金はムコバのもの(憑依霊がその真の所有者)なので、ムコバに入れておかねばならない。そのお金を使用する際には憑依霊にいちいち許しを請わねばならない。自分が稼いだお金や、それで購入した家畜についても、自分の自由にはできないのである。憑依霊とともに生きるということは、こんなところでもいろいろ制約の多い生き方なのだ。
カベンデラは多くの憑依霊をもった施術師であったため、「お悔やみのカヤンバ(kayamba ra pore)」の開催は不可欠である。単に残された遺族たちのため自分たちの母が突然いなくなってパニック状態の(悲しみ怒り狂った)憑依霊たちのために。しかし今回は、「生(なま)の服喪(hanga itsi184)」も省略され、「お悔やみのカヤンバ」はその資金を集め後日行われることになった。チャリたちは必要な指示を与えた後に、ムコバを「上にあげる」ために、カベンデラの施術上の父を探してくるようにと伝言して「ジャコウネコの池」にもどってきたらしい。しかし見つけ出したその施術師は、逆に、チャリが必要な草木を集めてきて、独りで唱えごとをし、瓢箪子供を薬液で洗い、乳香で燻せば、それで充分という指示を託してきた。チャリは結局自分とムリナが行ってやるしかないと諦め気味。その話のなかで、死んだカベンデラが「休み無しに」チャリを訪ねてきている(夢のなかでだが)ことがわかる。
チャリは体調が相変わらず悪いが、でも呼ばれたら遠くでも行くしかないと、施術師の心意気を示す。結局ムリナとチャリの夫婦はこの日、再びガンディーニに向かうこととなった。再び死の状況に赴くのを前に、ムリナはチャリの憑依霊たちに、ペサの治療が受けられなかったため、自分たちで草木を集めて、それで作った薬液でチャリを洗うという異例の施術(施術師は自分で自分を治療することはできないとされている)について、承諾を求めたうえで、後日(資金が集まれば)「お悔やみのカヤンバ」を盛大に開催することを約束し、この旅のあいだじゅう問題を起こさないように、おとなしくしていてくれるようにと懇願する。 興味深いのは、ムリナが語りかけているのはチャリに憑いている憑依霊たちであるはずなのに、カベンデラがもう死んでしまったこと、死んだ者はもう戻っては来ないのだということ を強調している点である。憑依霊たちが、カベンデラのことをもう考えたりしないように、考えても仕方ないのだと。まるでカベンデラが死んでパニックに陥っている、カベンデラを母とする彼女の持ち霊であるかのように。
これはカベンデラのムコバを(さらに遡ればデレのムコバを)継承したチャリの持ち霊たちが カベンデラの持ち霊とある意味「同一者たち」であるという暗黙の前提を示唆しているのかもしれない。憑依霊、なかなか捉えどころの難しいやつらだ。
またその後の雑談は、「生の服喪」が開催されないと決まった後も、屋敷の遺族たちは生の服喪の指定された期間中、地面で静かに座っていたことを教えてくれる。「生の服喪」が開催されたかどうかは、結局、ゲストがいるかどうかの違いの問題なのだろうか。
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tsovyaの別名とされる「内陸部のスディアニ」の絵 ↩
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