1998年2月に調査を終えて帰国して以来、妻の死などを挟んで私本人も落ち込む事が多く、仲間たちとせっかく採った科研費の調査も辞退し、ようやく復帰したのは最終年度2003年になってからだった。久しぶりにドゥルマを訪問し、また研究意欲がでてきた。2003年の12月の調査から本格的に再始動。
1998年の調査終了間際のチャリの姉カベンデラの死をきっかけに、チャリの氏族のなかで引き継がれている癒しの術の問題にあらためて気づいたのだが、その話の続きを聞いてみたいとおもっていた。
という訳で、今回の調査で機会があればいつか聞いておきたいと思っていた。
(from diary of 2004/01/05 Mon. jumma)1
10時過ぎ、チャリの屋敷に向かう。ムチェンザラが来ていて、マツェレ2を臼でついている。チャパティ3をごちそうになる。予定通り、チャリのウクーチェ4とそこで継承されているウガンガ5について聞く。チャリはその後ンドンガ6をヴオ7で洗う。新年にはやることになっているという。
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Hamamoto(Hm): あなたの母系クラン名(mbari ya kuche4)をお尋ねしたいんですが。 Chari(C): 私の母系クラン? Hm: ええ。 C: 私の母系クランはムァゴロ(Mwagoro)よ。父系クラン(kulume8)はムァニョータ(Mwanyota)。でもお母さんを通しての母系クラン(kuche4)はムァゴロです。 Hm: 癒しの術は母系をたどるんでしょうか? C: そうよ。癒しの術は母系をたどるわ。 Hm: あなた方の癒しの術は、どこから始まったんですか? C: 祖父から始まったのよ。私の母を産んだ祖父。祈願の施術師(muganga wa kuvoyera9)だったの。お祖父さんのキティティ(chititi10)は2つあったのよ。 Hm: 名前はなんでしたっけ。 C: デレ(Dele)よ。 Hm: ああ、デレお祖父さん。 C: そう、デレよ。 Hm: わたしたち、サンブルのキャンゾウ(地名)で、同じ名前の方(somo11)に会いましたよね。 C: そうね。そこで会った同じ名前の人は彼の孫よ。 Murina(M): あいつは孫なんだよ。 C: という訳で彼が癒しの術を始めた人よ。ところで、祖父の孫たちは全員が施術師なのよ。今や、ムチェンザラ(Muchenzala12)の家族がね。 Hm: あなたのお姉さんも施術師だったのでは? C: そうよ!まずは私の姉から始まったわ。発狂した(achayuka14)のよ。 Hm: あのカベンデラ(Kabendera)さんですか? C: カベンデラ。さて、カベンデラの次は、もう一人発狂したの。ムベユ(Mbeyu)よ。 Hm: ムベユさん。やはりあなたのお姉さんですか? C: 私の姉の娘よ、彼女。 Hm: カベンデラさんの娘? C: メザ(Medza)の娘よ。私のことを自分のチャーネ(chane15)と呼ぶ。さて、そこでバンジュ(Banju16)が発狂。彼もまた私の姉の子供(息子)よ。そして彼が私を「外に出し(nilavya nze17)」てくれた人。彼自身はカベンデラによって「外に出し」てもらいました。そして今度は彼が私を「外に出し」てくれたって訳。 Hm: バンジュさんの母親はムワカでしたっけ。同じくあなたのお姉さんですね。 C: そうよ。 Hm: たしかに皆さん互いに続いてますね。
Chari(C): そう。癒しの術は母系をたどるのよ。さらにまたもう一人来たわ。私は彼女をここ(チャリが今暮らしている屋敷)で、彼女を外に出したわ。彼女、瓢箪はここに置いて行っちゃった。彼女には癒しの術はありません。瓢箪は全部この家の中に今もあるわ。すっかり(中身が)干上がってしまって。姉の娘よ。 Hamamoto(Hm): 彼女の名前は? C: ジュムヮ((Jumwa)カベンデラの娘。チャリより年上)よ。さらに田舎(荒蕪地(nyika18))の方に、ニャンブーラという私の姉がいるんだけど、彼女の娘はエッガ。施術師なのよ。占いも打つし、「嗅ぎ出し(クズザ(kuzuza19))」もする。彼女(ニャンブーラ)にはもう一人娘がいて、彼女も「外に出し」てもらって施術師になりました。でも今は、イエスに入りました(waphenya Jeso111)。ああ、私たちは皆、施術師だわ。 Hm: 大勢いますね。 C: とっても、とってもたくさんよ。 Hm: 後はムチェンザラ(Muchenzala)とタブ(Tabu13)ですね。 C: 後はムチェンザラね。 Hm: ん? C: ムチェンザラは、早くから発狂していたのよ。そもそも彼女の霊たちは開いているのよ(隠れていない)。彼女が何かを夢で見ると、ほんとにその通りになるの。もし彼女に「外に出し」てもらうための資金があれば、強力な施術師になっていることでしょうね。でも、今はね、(彼女の憑依霊たちは)少し静かになっている112。じっとしている。でも以前は全く大人しくしたがらなかったのよ。 Hm: 何が大人しくさせているんでしょうか? C: わからないわ。
Hamamoto(Hm): ところで、あなた方の一人ひとりは、それぞれ同じ一人の憑依霊をお持ちなんですか? Chari(C): みんなが持っている憑依霊たちは同じ憑依霊たちよ。同じよ。私たちはみんな施術師よ。私たちの癒しの術は偉大なの。私は単に人々(妖術使いたち)によってやられているだけ。だって、私がもし、そう、私の癒しの術が、私が施術師になることを求められていると言われたから(手に入れることになった)癒しの術だったら、そもそもとうの昔にそれは殺されていた(駄目にされていた)ことでしょうね。でもね、ありがたいことです。私の癒しの術ははるか昔に始まったものなのよ、あなた。だって、あなたが来て私に会ったときにすら、私はとうの昔に始めていたわけだもの。私はマリアカーニ(周辺)で「外に出し」てもらいました。最初はバンジュ(Banju16)、私の姉の息子によって「外に出し」てもらったわ。さて、その後6ヶ月仕事をしたんだけど、そこで病気が戻ってきたの。今度は、この人、憑依霊ドゥルマ人と世界導師のせいでした。そう、私は重病だったのよ。さて、それで私はフピによって「外に出し」てもらいました。というのも、私の姉の息子は世界導師を知らなかったんだもの。それでフピに「外に出し」てもらったの。その後、移転してあちらにやって来たのね。 Hm: ええ、「ジャコウネコの池」村のムヮンザ氏の土地にね。 C: さて、今やそこにやって来て住み、今度はニャマウィによって「外に出さ」れたのね。 Hm: ええ、ムァモコ(地名)でね。ああ、よく覚えていますよ。 C: あなた、(ドゥルマを)去るときに、私に1000シリングくれたのよね。「あの長老(ニャマウィのこと)は『重荷下ろし(kuphula mizigo90)』についてよく知らない。だから別の施術師を探しなさいな」と言ってね113。そこで私はキジ・ワ・ムヮニョエに「外に出し」てもらったの。でもキジ・ワ・ムヮニョエも駄目だった。彼女は私の憑依霊ディゴ人の布を盗んだのよ。さて、あなたは今度は私をムァインジさんのところに連れて行ったわね114。ああ、たくさんの施術師たち! Hm: そしてムァインジさんはうまく行ったんですね。
Chari(C): ムァインジは成功したわ。ああ、ムァインジは、(ちゃんと)重荷を下ろすわね。ポイント一つだってなおざりにしたくないのね。そもそもムァインジはね。でも彼の奥さんは、横着な人ね。奥さんは横着ね。私を「外に出した」ときも、この人(ムリナ)と言い合いになってそこで泣いちゃったじゃない? Murina(M): あの人、(今日はもうこれで終わりにして)一晩寝て、明日の朝、草木を教示しましょうなんて言うんだから。私は言ったね、それは不可能だって。今日やるべきだって。 C: 彼女私に泣きながら(草木を)教示したのよ。 M: 時間は、まだ許容範囲だった。太陽はまだあの辺りにあった。たぶん、彼女は疲れていたんじゃないかな。彼女は、もうおしまいって言うんだ。私は、駄目だと言った。 C: ムァインジはそのとき、あの方、片脚が言うことをきかなかったわね。水のなかで何があったんでしょう。 M: ライカ(laika25)に噛まれたんだよ。 C: 噛まれた。やって来るのを見ると、グニュって(擬態語: 足を踏みしめるたびに痛む様子)。おまけに、キシング(chisingu115)を盗られちゃったって。 M: だからライカに噛まれたんだって。 C: やって来て、「脚が言うことをきかない。私は脚の病気だ。這わないと、出ていけない。」って言うの。 M: ムァインジはライカに噛まれたんだよ。そのときそこには大きなヘビがいたんだ。この杵よりも大きいやつがね。 C: なに?カリンボ(私)は、クズザ(kuzuza19)には行かなかったの? M: 来てたよ。あちらプーマ(地名)の、ムァインジが(川から)上がってきたあたり、そこの水中に、上流の方に、こんなヘビがいたんだよ。ムァインジはまさにヘビがいる辺りに潜ったんだ。妻の方は、あちらの奥の方で水に入った。 C: そうね。癒しの術の頭(chitswa116)って点では、ムァインジさんは奥さんには及ばないわね。奥さんの方が上(字義通りには「前」)で、夫の方は下(字義通りには「うしろ」)ね。でも努力って点ではムァインジのほうが上。奥さんの方は横着よ。夫を叱りつけたり(怒鳴りつけたり)するんだもの。
Murina(M): 奥さんの方は、何かをしてもやり残しておきたがる。ムァインジはやり残すのも嫌いだし、途中を省略するのも嫌いだ。あちらをつかもう、こちらは放っておこうってやつはね。ムァインジはきっちり道筋を辿ろうとする。でもそうしたやり方が、あの奥さんには気に食わないんだよね。ムァインジは何一つとしてやり残さない。完璧に。でも奥さんの方は、ときに怠け者だ。 Hamamoto(Hm): 終わらせた方がいいと思ったんでしょうね。早めに終わらせたほうが。 Chari(C): あの当時(チャリのライカとシェラ等を「外に出す」ンゴマの当時)彼女は妊娠していたんだよ。 Hm: 彼女が?なるほど道理で。 M: 彼女は妊娠していた。それで疲れていたんだよ。でも、もし疲れているんなら、相棒に任せたほうがいい、仕事は。 C: 彼女の娘さん、先日ここで会ったんだけど、あなたに言わなかったっけ? M: うん。ムワカさんだろ。 Hm: ところで、ムァインジのところが終わったあとで、あなたは憑依霊ペンバ人をモネーニさんによって「外に出し」てもらいましたね。 C: ああ、でも彼は失敗したのよ。今に至ってもまだ戻ってこない。ピング(pingu48)すらまだ縫ってくれてないのよ。 Hm: おやまあ、なんと。でもあのンゴマは上首尾に終わりましたよね。 C: ンゴマは上首尾だったわ。とっても上首尾だったわ。あの日、カリンボは発つ日だったでしょ。 Hm: ええ。 C: カリンボは、ずいぶん長いわね。ほんとにとっても昔。「ジャコウネコの池」の頃から!みんなが、お前の母さん(施術上の)は遠くに立ち去ったよって言ったら、あなた「お母さんは、「的中しただろうに」地区のBek.....さんのところにいると知ってますよ」って答えたのよね。帰国する前に、私たちはあなたに「ここを離れて、こちらに移転する」って言ってたから。Mw....C...に言われたのよね。「私たちはあなたのお母さんをここから追い出したのよ。....(略)....」ってね。彼女死んじゃったわ。...先日。(浜本注:最後のくだりは関係者の不仲についてのプライバシーを含んでいるため記述のかなりの部分を省略している。)
チャリは祖父デレの施術が母系集団で継承されていると主張しているが、デレは男性なのでその子供ムワカ(Mwaka, aka Memedza)とは異なる母系集団(ukuche4)に属しており、すでに出発点で母系継承ではない。とはいうものの、孫娘の一人ムパ(Mupa, aka Kabendera)に継承されてからは、もっぱら同じ母系血縁の内部で感染が広がっているのがわかる。
この時点でのデレの癒しの術の広がり(デレのムコバに捕まった人々)を図示しておく。長男クワレ以外の男の子供は省略。他にもチャリの姉妹がいるが、継承に関わっていない姉妹は省略。

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tsovyaの別名とされる「内陸部のスディアニ」の絵 ↩
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