(from diary, Nov.13(Sat), 1993, kp'sha)
今日はMawayaのmesomo1(Chumba氏の夫人)に対するkuphula mizigo2がある。朝八時に行くが、結局始まったのは午後四時である。Murinaの屋敷で待機。...(浜本注: 中略)...Kapilao(浜本注: 人名)がmbuzi42頭を連れて立ち寄り、Murinaとnjama5。その後Chumbaの屋敷(すぐ近く)に移動。女性muganga6はGwadu(浜本注:「ジャコウネコの池」に隣接する地区の一つ)のPesaさん、もう一人の男性mugangaはSaidi氏(片目が見えない)。遅くなったのは、muganga達が通常の手続きとは逆に、最初にfungu8の支払いを要求したためで、当然のように不足しており(後で安く済まそうという魂胆が悪いのだが)mugangaがこれに納得しなかったためである。おかげでこちらはすき腹を抱えたまま待ちぼうけだった。開始が遅れたために既に日が暮れかかる。...(浜本注: 中略)... このmugangaたちのkuphula mizigoのやり方はかなり変わっていて、しきりとkutsodza tsoga9をする。Chariによるとshera10 をkuhega28しているのだということだが、いまいちよくわからない。もう一度詳しく聞いてみる必要がある。舞台装置や演出がかなり凝っており、面白かったのだが、カメラを出すと、写真禁止と言われた。録音も歌だけならいいということで、とほほなことになった。下手くそスケッチと細かくフィールドメモをとることで補う。 ンゴマのあいだじゅう、Chari体調がすぐれず、しきりと頭痛を訴えていたが、血も少々吐く。吐血という感じではない。口の中を切って出血したという程度。実はkuphula mizigoで屠殺された赤いヤギは急遽Murinaのヤギを使ったのだが(Kapilaoが連れて行ったヤギの一頭がこれ)、これがチャリの持ち霊の一人Muduruma30のためにとっておかれていたヤギで、うっかりMudurumaに許可を求めるmakokoteri36抜きで屠殺してしまったため、mudurumaが怒ってしまったせいだという。
chinu(搗き臼) 4 中心のchinuには灰ivu と炭(煤)misiziとオーカー mbuuの 三色で直線模様・斑点模様が付けられている
mutsi(杵) 4 それぞれの chinu の傍らに
sufuria(アルミの鍋) 4, ivuとmisiziとmbuu で ku-donwa
chibakuli(椀) 4, ivuとmisiziとmbuu で ku-donwa
payu(パパイヤの実) 2, ivuとmisiziとmbuu で ku-donwa
nazi(ヤシの核) 1. ivuとmisiziとmbuu で ku-donwa
こぶし大の石 8,
muhala76の中程、小屋Aの前に、彩色されたchinu77を中心に3つのchinuが mutsi78とともに置かれる。東側のchinuと西側のchinuは上下逆さまに置かれている。
中心のchinuの中には薬液vuo
shera10 を罠につかまえる shera が確実にmuwele79の中にいるように、またatsiyuge83
北のchinu
上下逆さまにし(このchinuは前もって逆さまになっていなかった)北側の道の入口に置く muweleはmutsiを支えにして、裏返されたchinuの上に立ち、東を向く 施術師(男)、鏡に反射した光をmuweleに当て、光が当たった箇所を安全カミソリの刃でkutsodza9し、ndonga85のmureya86をすり込む muwele、mutsiを道の方向に倒して降りる chinuを上下正しく置き、中にmutsiを差し入れる
おなじことを東のchinuと西のchinuでも行う
3つのchinuが全て道の入口に据えられ、中央のchinuのまわりに 図のように sufuria87, dafu38, chibakuli88, payu89, mawe90が並べられる
石maweはそれだけでラインを形成、他の品物も2つのlineを形成 品物を並べる順序には特に決まりはないという sufuriaとchibakuliには水が入れられる 東に向かうlineに沿って一本のバナナの茎が置かれる 人々は小屋Bの前で見物
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16:00 小屋Aの内部でkayamba開始
muweleは戸口に向かって(西を向いて)すわる mulunguの演奏から始まる ku-suka91 3曲、ku-tsanganya92 5曲、ku-bit'a93 1曲 施術師Pesa、ku-bit'aでgolomokpwa94 続いて chitsimbakazi96 1曲 laika mwendo97
16:25 施術師Pesaそのまま走り出て、muhoni98
その後を白、赤、黒のヒヨコをもったmwanamadzi99とkayamba演奏隊が続く muweleはそのまま小屋の中にとどまる
16:40 近所のKilazini川の水中で赤と白のkukuをkutsinza,
水中から泥やtoro101, chilongozi102をとり、mulunguの布にくるむ kuku mwiru103はそのまま持ち帰る
17:10 帰宅
小屋Aを時計回りに2回周回し、小屋の戸口から後ろ向きに小屋に入る。 仰向けに寝ているmuweleの上にanamadziはmulunguの布を広げて持ち、Pesaは布の上に広げた泥やtoroなどの上から水をかける 下に寝ているmuweleはびしょ濡れ Pesa、ndongaをもち、その口をmuweleの耳、に近づけて息を強く吹きかける
muhoni出発してから、この間、ずっとlaikaの歌が演奏され続けていた
17:18 muweleを小屋の外に連れ出す
戸口から出る時、「戸口の上の屋根の上から」Mwanamadziの一人がmuweleにvuoの薬液をぶっかける
3人の女が、東、北、西のchinuをkuphondaする
一方、muwele、中央のchinuのところに導かれる
chinuの周りを時計回りに周回しながら、muweleの頭の上にnaziを置き、それをmwanamadziがmundu104で割る、payuについても同じことをする、 最後にmadafu38 dafuのなかのmadzi105を次々にmuweleにかける 最後にmuweleはchibakuliとsufuriaの水を自分で浴びていく
すべての石、nazi、payuを一つのkaphu106に詰める。バナナの茎も入れる
この間、3人の女はずっと3つのchinuをそれぞれ搗き続けている
muwele 東のchinuに導かれ、chinuを搗く
muwele、mutsiを持って道に入り、数メートル進んだところでそれを投げ捨てるよう言われる
被っていたmulunguの布を取り去り、chinuを頭の上に置かれる chinuをそのまま運んでmutsiを投げ捨てた場所に投げ捨てる
同じことを北のchinu、西のchinuでも繰り返す。 中心のchinuに戻り、vuoの薬液を再び浴びた後に、中心のchinuを南の方角に投げ捨てる
中心のchinuが置かれていた場所に戻り、石、nazi、payu、mugomba108を詰めたkaphu106をkuphika109する
赤いmbuzi4が連れてこられ、muwele、kaphuを頭に載せたまま、鞭(葉のついた木の枝)で打たれながら、赤いmbuziを先に立てて進む
muwele、運んできたmizigo3をuringoの北の方に捨てる
muwele、uringoに腰をかけているmwanamadzi(女性)の膝の上に北を向いて腰掛ける。
両方のバケツの水を浴びせられる。 施術師(男)はndongaをmuweleの頭においてlulimi110を激しく上下させる
mbuzi4をmuweleの前に連れてきて、muweleにmbuziをまたがせ、その上に座らせる。
この状態でmbuziをkutsinza111し、血をchibakuli88で受ける。 その血はバケツの水に加えられる。 この間、施術師(男)は休みなくndongaのlulimiを打ち続けている。
muwele 再びuringoの上に座らされる(今度は独りで)
uringoの布を取り去り、muweleに血の混じったバケツの水を浴びせる 施術師(女)、muweleの頭にmarero112を付けてやる 女性のanamadziたち、全員でmuweleを洗ってやる
この間にuringoの上部の棒を取り去り、4本の枝を跳ねさせる。
muweleをuringoの上に南に向いて立たせる。 施術師(男)、muweleにkutsodza9を施す mwanamadzi、uringoの上部を完全に解体
施術師(男)、muweleの手を取って南の方向に下ろす
mwanamadzi、muweleの背後に回ってuringoの下部を引き抜き(地面から)、muweleの頭越しに南の方角に投げ捨てる
屋敷に戻る。
muwele、手鍬2本を入れたchikaphu106をkudziphika109し、munda113に行き、畑を耕す仕草をさせられる
これ以降は、これまでに見た他のkuphula mizigoとほぼ同じ。
(from diary Nov.17(Wed), 1993, kpwisha) 朝8時にMurinaたち来る。日差しが強くなる前に出発しようという腹である。Bang'a114 のMwainzi夫妻のugangaがkuloga115された件で、mukoba27にnguvu116を取り戻し、Dunia117、Jamba121に対するkombe66治療をするのが目的である。Bang'aには10時すぎに到着。mihi60を集めたり雑談したりしているうちに午後1時になる。雑談のなかでは、チャリたちは先日のChumbaの屋敷でのちょっと風変わりなkuphula mizigoについても論評。けっこう批判的。...
Nov.13の「重荷下ろし」についてのチャリたちの論評 (DB 5973-5986)
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Murina(Mu): そいつはね、ただ「重荷下ろし」だけがしたいんだよ。 Mwainzi(Mw): なるほど。 Mu: (憑依霊に)施術の(仕事を)要求(されている)とか、そんなものはない。例えば、あのヤギだけど、もし施術師になろうというんじゃなければ、あのヤギは必要なんだろうか、それとも? Mw: ヤギは必要だよ、それは。たとえば、今ここに病人がいて、その人は「重荷下ろし」をしたいだけだとする。それでも、赤いヤギは不可欠だ。そう。赤いヤギこそ、あそこへ行って、それに対して語りをするものなんだから、そのヤギこそが。 Anzazi(A): もしヤギがなければ、雄鶏が2羽必要よ。 Hamamoto(H): それで、そのヤギには、ムウェレ(muwele)が腰を下ろさなければならないんでしょうか? Mw: ええ?そうだよ。そのヤギこそ、語り諭されるやつなんだよ。それと白い幼鶏。それもそこで語りかけられる。それと赤い幼鶏もそこで語りかけられる。黒い幼鶏は、ビーズ飾りのために屠られる。そうして、病人にビーズ飾りを装着させるのさ。黒い鶏はね。 (浜本注: ここでは、ムァインジ氏には私の質問の意味が伝わらなかったようだ。私は先日の「重荷下ろし」でヤギの上にムウェレが馬乗りになるのを初めて見て、びっくりしたので、それが正しい手続きなのかどうかが聞きたかったのだが、いきなり聞くのはちょっと焦りすぎ。後のムリナたちとの同じ問題でのやり取りからもわかるように、ムァインジ氏にとっては、ヤギの上に人が乗るという事態そのものが想定外のことだったため、私のいつもの意味不明な問いの一つとして受け止められてしまったみたい。というわけで私はしばらく余計な質問はしないことにした) H: 黒い鶏? Mw: そう。(ムリナに向かって)もしこの人がそのことをまだ十分にわかっていないのなら、当日、彼がここにやってくるとしたら.... Mu: ああ、いや。私が言ってることはね、私は実際にこの目で見たから、言ってるんだよ。もしかしたら自分が見逃してしまったかもしれないから、というわけじゃなくてね。 Mw: そうだろうね。
Murina(Mu): とんでもない。私はたった一つの段取りすら忘れたことはない。(段取りは)全部、頭の中に入ってる。でも、私はそれ以上のことを知りたかったんだよ。病人が、(シェラの施術師になるためにというのではなく、単に)「重荷下ろし」をするというときにも、それにヤギが必要か、それとも。そこで、あちらで私は ... Mwainzi(Mw): ヤギは必要です。 Mu: ということで(私の質問の意味は)おわかり? Mw: ええ。 Mu: つまり、ヤギがそこに用意されていることは、必須だと。たとえもしヤギがないなら、鶏ならすでに手に入るとは言え、でもやはりヤギだと! Mw: ヤギなんです。それと白い雄の幼鶏、赤い雄の幼鶏、それと黒い雌の幼鶏。黒い幼鶏は、ビーズ飾りのために供犠されます。その鶏は、唱えごとをし、終わったら、あちらに投げ捨てられます。 Chari(C): ところでそれらの鶏はどこで屠られるのですか? Mw: ウリンゴのところ(chiringoni44)ですよ。 Mu: ウリンゴのところ。 Mw: そこで唱えごとをして... Mu: ウリンゴのそこで死ぬ。 Mw: そう。あなたはそこで各方角に唱えごとをする。 C: でも、鶏たちは水の中に行って死んでたわよ。
Mwainzi(Mw): 違う、違う。それは(シェラ(shera10)の)「嗅ぎ出し(ku-zuza)11」のためのやつ(鶏)だよ。水場に行って屠られるのは赤い鶏だけだよ、そこでは。もし「嗅ぎ出し」をライカ(laika122)も一緒にやるのなら、白の鶏も、赤い鶏といっしょに屠られる場合もあるね。それはムズカ(muzuka53)でかもしれないけど。もしシェラそのものを「嗅ぎ出」しに行くのなら、あなたが探しに行くのは... Murina(Mu): 池(ziya)だね。 Mw: そう池のある場所、あるいは川、それも大きな川。 Mu: 睡蓮が生えているようなね。 Mw: そう、さてそこで... Mu: そこで、あなたはシェラを探さねばね。 Mw: そこで、あなたはシェラを探さないとね。さあ、さてそこに着くと、あなたは南の角で立ち止まり、そこであなたの鶏で唱えごとをする。そこでその鶏を屠って、そこに捨てる。次に北の角にもどって、もう一羽の鶏で唱えごとをし、それを屠って、そこに置く。(屠られた鶏の)脚の向き、鶏がどんな風に死ぬかをよく見ないとね(吉凶を判断するために)。さて、ヤギを持ち上げて、(ムウェレ(muwele79)の)頭上に置いて唱えごとをする。ヤギをこんな風に(ムウェレの背中をこするようにして)下に降ろし、そこに置いて、屠る。さて... Mu: 先日(のGbwaduでの「重荷下ろし」)では、ヤギの上にムウェレが座らされたんだよ。 Chari(C): 先日はあの人たち、私を殺したのよ。 Hamamoto(H): そう。ヤギは(ムウェレに)上に座られたんですよ。(浜本注: やっと先の私の質問に戻ることができたよ!)
Chari(C): ねえ、あなた(浜本注:親しみを込めて文字通りには「私の妹」と呼びかけている)、あのヤギはね、私自身が血がワーッと流れるのを感じたわ。だってあのヤギは私の家のヤギだったんだもの。(赤いヤギ(茶色のヤギ)が「重荷下ろし」に必要だということで、所望されたので、別のヤギと)交換(で提供)したヤギなんだけど、唱えごとをしていなかったの(浜本注: 実はそのヤギはチャリの持霊である憑依霊ドゥルマ人のために飼い置かれていたヤギだった)。その私のヤギが屠られたのよ。ヤギは脇腹を人に座られたのよ。そのお腹がここからはみ出して、ピクピクして。もうしたたかに押し座られたのよ。 Mwainzi(Mw): その病人に? Hamamoto(H): うむ。 C: その病人によ。 Anzazi(A): 上に乗られたのね。 C: そうなのよ。あなた(妹よ)、上に乗られて、ヤギは苦しそうにビクビク。で施術師は延々と唱えごとよ。でヤギは上に座られたままで、屠られる。私はズーッって感じた(血の気が引いた)。お腹がギーッと押しつぶされて、脇腹のこちらとこちらからはみ出して。 H: そして血が水の中に注がれたんです。 Mw: 血が水に注がれた。薬液(mavuo65)のなかにですか? Murina(Mu): 水はバケツの中にはいってました。(血が注がれた)水は(患者に)浴びせかけられました。 C: そのヤギで、私は悲しかった。私自身が死にそうになった。 Mw: こちら(のやり方)では奴隷(施術師のこと)は、御椀(vibakuli pl.)に灰と灯油を入れて、ヤギで火を消すんですよ。(その御椀の灯油に)火を点けてね、こんな風に立っているところに当てて、火がジュワジュワって、ああ! Mu: (先日の施術師は)その手続は怠ってましたね。
Mwainzi(Mw): まあ、それぞれの施術師ごとに... Murina(Mu): 病人が(ヤギの上に)上らされる。 Mw: ええ。 Anzazi(A): 水そのもの(瓶などに詰めて荷物として運んできた)、例の水も、ウリンゴのところ(chiringoni44)で浴びせられるの? Mw: 水は、そこ、ウリンゴのところで浴びせられます。 Mu: そう、水を浴びせられなければ... Mw: そう、水を浴びせられなければ、だって、水を浴びせられなければ。 Chari(C): 水は御椀に入れて搗き臼の周りを回る。 Mu: 水はすべて浴びせられる。 Mw: 全部浴びせられますよ、瓶(に入った水)も浴びせられます、ワーッて。こちらでは人(施術師)が唱えごと。そしてココナツの実(核(nazi))が持ってこられて、唱えごと、ゲッ(ココナツの核が割られる音)、ワーッ(中の水が撒かれる様)。キャッサバが持ってこられて、人が唱えごと。 C: そのココナツの実(nazi)だけど、そのココナツの実。ココナツの実すべて、未成熟のココナツ(madafu)、8個だったっけ、はウリンゴのところには行きませんでしたよ(先日の「重荷下ろし」では)。それらは。 Hamamoto(H): ええ、それらは搗き臼のところで割られました。 Mw: そもそもココナツの実(核)は2つだけだし。 C: それらのココナツの実は屋敷で叩き割られましたが。 Mw: 屋敷で叩き割られただって? C: ええ、さらに御椀も全部、その搗き臼の周りを回っただけだった。
Hamamoto(H): ココナツの実全部、それにパパイヤの実も... Mwainzi: それにパパイヤの実も? H: はい。 Chari: 御椀も搗き臼の周りを回ったわ。おまけにその水も、人に掛けてもらったんじゃない。(ムウェレ)本人が自分で運んで、自分で浴びたのよ。本人が運んで、自分自身に掛けたのよ。 Mw: そうさせられたんですか? C: そんな風にさせられたのよ。腰をかがめて、自分でとって、自分自身で掛けたのよ。さらに、そうしろと言われて、あちらでも御椀8個とお鍋(スフリア(sufuria87))8個、自分で取って、自分で浴びて。 Mw: 御椀すべて、お鍋すべて終了するまで。 C: そう。その次に、突然搗き臼を頭の上に載せられて、それを投げ捨てさせられた。 Murina(Mu): 最初は杵だよ。ああ、違った。まず搗き臼を搗くところから始めた。搗かせられ、私が見ていると... C: 彼女は搗いたりしなかったわよ。 Mw: 搗かなかった? Mu: でも、私はドゥガ、ドゥガ(杵で搗き臼を搗いている様)が見えたし、彼女が首をこんな風に振っているのも見えた。 C: ええ、こちらで女性が臼を搗き、あちらでも、真ん中でも、それぞれ臼を搗いていたわ。そしてこっちの方で彼女が自分で水をかぶっていた。あちらでは女性たちが搗いている。ンブ、ンブ、ンブってね。 Mw: 3人? C: 3人よ。そして4つ目の臼は... Mu: でも、おまえ。あの、(重荷を)肩から掛ける場面で、彼女が杵を持たされているのを見たんだけど。 H: うーむ。
Chari(C): いえ、いえ。あの杵はね、臼を搗くときに一緒に搗いたのよ。それを搗いていた女性といっしょに握ったのよ。 Murina(Mu): だって、私は彼女の頭がこんな風に(動いているのを)見たんだから。 C: ええ、杵は、搗いていた人が使っていたの。その後で杵を持ち上げて、彼女の頭の上に置いて、彼女はそれを投げ捨てに行くのよ。 Hamamoto(H): そうだっけ? C: 次に戻って臼を頭のうえに載せられて、さあ。それを投げ捨てに。さて、あちらでも搗いて、杵を頭に載せられて、投げ捨てに行く、戻って今度は臼を頭に載せられて、行くよう命じられる。すべての臼が終わるまで。 H: すべては屋敷内でです。 Anzazi(A): 屋敷内で? C: 屋敷内で。 Mwainzi(Mw): 屋敷内で? H: そう、屋敷内で。 Mw: 池のそばのウリンゴ(karingoni44)ではやらなかったのかい? C: ああ、その後で、ウリンゴのところへ行かなくっちゃよ。 Mw: おお、そうか。そこで頭の上にのせたんだね。 C: そうよ。さてその後で、(ムウェレの)頭に石をつめた編み籠の重荷を載せられて。あちらのウリンゴのところまでね。 (浜本注: ムリナさんとチャリさん、ちょっと記憶に齟齬があるみたいですが、正確には私がフィールドノートに克明に記録しているとおりです。えっへん。だからなんだって感じですが。)
Mwainzi(Mw): そこでウリンゴでのヤギの死ですね。 Chari(C): そうよ。 Anzazi(A): (ムウェレが)その上に座ったのね。 C: ええ、その上に座ったのよ。 Mw: ウリンゴでは、搗き臼での搗き作業はなかったんですね? C: 搗き作業どころか、薪もなかったんですよ。薪の束を採りにもいかないの。私が見たのは水浴びせだけよ。 Mw: 水! A: そこで(ムウェレは)水をぶっかけられたのね。 Mw: そうか。 C: さて、重荷はウリンゴを行き過ぎたところまで行って、そこで投げ捨てられて、その後でウリンゴに戻って座らされるのよ。 Mw: でも、まずウリンゴのところを通り過ぎるんですね。 C: そこには人が埋葬されているとか言って。 Hamamoto(H): さて、彼女はウリンゴに座らされるのですが、そのウリンゴが、まるで跳ね罠のようで、最後に一本、一本跳ねさせて、その後で彼女にまたクツォザ(kutsodza9)が施されるんですよ。 Mw: じゃあ、そこで鏡を使ってクツォザされるんですね。 C: まず最初に、すでにクツォザされてるのよ。
Mwainzi(Mw): ところで、クツォザされて、それから水を掛けられるんですか? Chari(C): 最初にクツォザされるのよ。まだカヤンバが打たれる前に。 Mw: ええ? C: そうなのよ。 Mw: 彼女がしっかり防御される(achifinywa138)ように... Hamamoto(H): そしてウリンゴのところで、もう一度クツォザで締めくくられるんです。 C: 締めくくりで、もう一度クツォザされるのよ。 Murina(Mu): 私は言ったんだよ。あいつ、あいつは薬の(wa muhaso139)シェラにあの御婦人をつかまえさせ(shakasha140)ようとしていると。
C: そう。あの鏡ときたら、...イィィ(浜本注: 嫌悪などを表す表現)! 施術師はこっちに立ってるじゃない。で彼女は杵をもって搗き臼の上に立ってるの。それで鏡をこんな風にね、彼女が見えなくなるくらい、ンガッ、ンガッ、ンガッ(鏡の反射がギラギラしている様を表す擬音語)。ンガッとされたところ(皮膚の、鏡に反射する太陽の光があたった場所)がクツォザされるのよ。ンガッとされたところが、クツォザ。 Mu: 太陽の光を罠に掛けていたんだね。しっかり、上々に、太陽の状態をつかまえたってこと。太陽全体が鏡の中に完全に落とされたんだ。 Mw: 太陽が鏡の中に落としこまれた! Mu: そう、こんなふうにしたら、燃やすこともできるぞ。小屋だって一発で燃える。(浜本注: いや、いや、いや...) C: そこでは、彼は角(つの)をもって、それで罠に掛けていたよ。これくらい大きい角そのもの。まさにそれに捕らえていたんだね。赤と白と黒の端布がついていた。 Mw: 彼の施術が、妖術使いによって邪魔されないように! Mu: 用心しないと(k'anga ni dzuphi!141)!
Chari(C): そもそもあの男、人々にシェラの罠をかけているのよ(浜本注: 薬(妖術)で人々にシェラをとり憑かせている)。 Mwainzi: 彼が? C: そうなのよ。 Murina(Mu): 用心しないと(k'anga ni dzuphi)。 Mw: そうなんだ。 Mu: そうとも。私を見たそいつは、自分の技を仕掛けても、くたびれもうけになる。私はただ、そいつが何をするのか見に行ったんだけど。 Mw: それだけ? Mu: それだけ。 Mw: さて、そこで、あなた方が先に話してた大きな角(つの)なんだね。罠を仕掛ける日に、彼は自分のムバレ(mbareze142)を地面に打ち込んだんだ。 C: そうなんだってば。あの人、自分の施術が(妖術によって)妨害されると思ったんだね。 Mu: 「なあ、なんで私があんたを(妖術で)妨害しなくちゃならないんだよ。あんたを妨害して、それが何になるっていうんだ?仕事は一つなのに。あんたの仕事を妨害したら、私は自分の仕事を妨害したことになるじゃないか。」 Mw: そうだね。 C: ところで、シェラっていうのは、お父さん。あなたのシェラは、あなたを狂わせる(kpwayusa143)もので、普通、自分でもわかるわね。 Mw: そうだとも。
Chari(C): さて、そいつが重荷を下ろすあなたのシェラ。でもあなたはあなたのシェラを人に罠を掛けてとり憑かせることはできません。でも、お金で買える薬のシェラ(wa muhaso139)もいます。私には施術上の子供がいて、彼女を外に出しました144。彼女を憑依霊ドゥルマ人とムルングで外に出しました。でも先日会ったら、すでにシェラの施術師になってたの。彼女のシェラは罠に掛けるシェラなのよ。 Mwainzi(Mw): 罠に掛けるシェラ。 C: そうお金で買うシェラなの。 Mw: そうだとも。お金で買うやつ。 Murina(Mu): 聞くところじゃ、彼女のもつシェラ、そいつは罠に掛けるシェラだってさ。 Mw: そのとおり。 Mu: 聞くところじゃ、彼女のは、完全に彼女自身のもの。それはフュラモヨ(fyulamoyo145)の妖術だよ。 Mw: フュラモヨ! C: そんなわけで、そのシェラに捕らえられたら、こんな風になるのよ(身体を掻きむしる動作)。 Mu: そいつのシェラはフュラモヨそのものだよ。ある人が私にその施術を与えてくれる気まんまんだったんだけど、私は欲しくないって言ったんだ。私にろくでもないものをくれようとしていたんだよ。 Mw: 私は、ここに行ったんだけど、病人で...(浜本注: 言葉の途中で遮られたため、何を言おうとしていたのかは不明) Mu: そいつが言ったことには、「もしあんたが、ここのシェラで、ご婦人たち全員を泣かせたいなら、私はあんたに草木を教えてあげるよ。行って、水場の水にそれを仕掛けたらいい。」 Anzazi(A): もう、それは罪じゃないの、それは! Mw: そう、それは罪だよ、それは。
Murina(Mu): (そいつが言うことには)「お前が水場に罠を掛けさえすれば、(女たちは)すぐに一人残らずさ。お前はそこに行って彼女ら全員を扇いでやることになるよ。」 Mwainzi(Mw): なんと! Chari(C): お前の儲けのために扇げ。でも癒やしのために扇ぐなって? Mu: 私は欲しくないって言った。占いで、私がやったってバレちゃうじゃないか。 Mw: その通り。 Mu: そうなると私は癒し手じゃないことになっちゃう。 Mw: そう、お前は癒やし手じゃなくなるよ、あんた。お前は言われる。「あなた方が水を汲む場所に、そう、誰それさんがモノを注ぎ込んだよ、そこに。」ってね。さあ、お前はもう癒し手ではなくなる。 C: あんたは袋叩きにあうよ。健康じゃいられない。 Mw: そう。あなたは言われる。「このあたりの人々は大変な目に遭った。そいつは金のためだけさ。」お前が罠を掛けにいって、もしかしたら、お前自身は、占いで捕らえられないかもしれない。別の人が捕らえられてしまう。一方、お前は、さらに別の場所に罠を掛けに行く。あああ! Mu: お前は言う。このあたり全部だぜって。 C: さて、お前はお前の仲間に(治療をさせて)お金をうけとらせる。 Mw: はい。 C: で、お前自身はお前が罠を仕掛けた場所から、とっくにいなくなってる。 (浜本注: なぜか、ここで悪人目線で悪巧みを練ってみる彼ら!) Mu: 躓かない、躓かないかっていうと、お前躓いちゃうよ。躓かないかっていうと、躓くよ。躓くやつ、躓けばよい。 Mw: (捕まって)「ああ、私じゃないですよ。私は、私は治療するだけです!」
Murina(Mu): おれはお前を号泣させるさ。 Mwainzi(Mw): 以上! Mu: 以上!心は不安で満ちて、号泣のみ。 Mw: ところで、思ったんだけど、シェラと、このフュラモヨ(fyulamoyo145)とは実際とっても近いよね。あなた、ご存知ですか... Chari(C): だって、お父さん146、あなたお父さん... Mw: ご存知ですか、憑依霊は癇癪もち(vitunusi)... C: ねえ、お父さん、ご存知でしょ。昔からシェラは買うこともできたとでも!昔からシェラがいたとでも! Mw: 私の聞くところによると、昔からの憑依霊は、はじめはムルング(mulungu)だけだったと。それに憑依霊アラブ人(mwarabu)。 C: プンガヘワ(pungahewa147)。 Mw: それとプンガヘワ。 Mu: こいつシェラは、あとから出てきた。 Mw: そう、このシェラ本人ね。このイキリク(ichiliku19)は別の憑依霊。最近になって別れたんじゃなかったっけ。 C: そうじゃないわ。 Mu: シェラがイキリクだよ。 Mw: シェラがイキリクなんだね。 Mu: イキリクなんだ。 Mw: なるほど!
Murina(Mu): (シェラ)はイキリク。あいつレロ・ニ・レロ(rero ni rero148)もイキリク。 Mwainzi(Mw): そいつ。つまり増やされてきただけなんだね。 Mu: 悪知恵さ。憑依霊を分け増やして、お金を稼ごうっていう話だね。 Anzazi(A): (レロ・ニ・レロの歌、口ずさむ)。「年寄り女、彼女のお金は夜を越さない、今日限りのお金。彼女の施術は、別の日に延ばせない(字義通りには他の日時を指定できない)」こんなの嘘よね。 Mw: ああ、今日び、(その施術にかかる費用は)高額だよ。2000シリングだよ。 Mu: それじゃあ、とても扇げないね(簡単にンゴマは開催できないね)。 C: (ンゴマを開催する人が用意する)食費は、あなた方の金額と同じ。 Mu: とても扇げないね。でもあちら下の方だと。 Mw: ほう。(料金は)また低くなったの? C: (チャリの娘)タブが嫁いだ下の方の話よ。 Mw: ああ、そうですか。 C: ああ、でもほとんど同じ屋敷と言ってもいいくらい。遠くはないの。 Mu: ああ、でもあそこじゃ、仕事はできないね。あいつらケチだもの。 Mw: そこでは! C: でも考えても見て。小麦粉4袋のところ、小麦粉は5袋、砂糖4キロ半、そのうえに何、キンボ(ショートニング)、そのキンボも瓶(1本350cc)6本分のプラスティック容器にいっぱい。 Mw: なんてこと!
重荷下ろしについての概説でも指摘したように、比較的近年(と言っても1960年前後と思われる)に出現したとされるシェラについての施術は、施術師ごとの違いが比較的顕著な施術である。しかし、ここで紹介したものは、そのなかでも、かなり型破りな「重荷下ろし」だった。
重荷を下ろした後の屋敷への帰還、その後の展開は、他の「重荷下ろし」とほとんど違いはなく、サラッと流された感じだった。
しかし「重荷下ろし」に出発する前の、あれこれの作業は舞台装置もかなり細かい設定が凝らされていたし、鏡に太陽光を反射させて、ムウェレに当たった部分をクツォザ(kutsodza9)するとか、いったい何の演出かと思うほどだった。搗き臼を4つも同時に使用するとか、凝りすぎやり過ぎな感も。このあたりに凝ることで「家事嫌いで病気がちな奥さんを働き者の奥さんに変えることができるのか」、まあ普通に考えると無理だと思うが、そういう身も蓋もないことを言うと、「それを言っちゃあおしまいよ」と言われそうで、ここでこそっと言うだけにしておきたい。
後日、施術師ムァインジ・アンザジ夫妻の家でのチャリたちの論評は、かなり辛口だった。でも親しい施術師たちが会うと、話は施術についての意見・情報交換やディスカッション。専門家同士の深い話はいつ聞いても面白いな。